研究課題/領域番号 |
23390321
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
川上 和之 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (00293358)
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研究分担者 |
源 利成 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50239323)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / LINE-1 / 大腸がん / 5-FU |
研究概要 |
5-FUの効果とLINE-1のメチル化の関係にはメチル化とクロマチン構造の相関が介在すると示唆されたため、クロマチン構造を定量的に評価できる解析法、Formaldehyde-Assisted Isolation of Regulatory Element (FAIRE)法を改変してゲノム全体のクロマチン構造を評価する手法を開発した。この方法を用いて5-FU投与時のクロマチン構造の変化を観察した。LINE-1のメチル化レベルが高く、クロマチンが凝集している細胞CaR-1では5-FU投与によるクロマチン構造の変化は軽微であった。LINE-1のメチル化レベルが低く、クロマチンが弛緩している細胞SW480では、5-FU投与によりクロマチンの弛緩は著名に増強した。抗ヒストンH3抗体を用いたChIPアッセイで解析したところ、SW480ではヒストンと結合する総DNA量は減少したが、CaR-1では変化を認めなかった。クロマチンの弛緩に伴ってSW480では核内にリン酸化ヒストンH2AXのfocusが出現し、DNAの2重鎖切断が起こっていると考えられた。クロマチン凝集のマーカーであるヒストンLys9メチル化とリン酸化ヒストンH2AXを2重染色すると、両蛋白は核内で排他的に存在し、DNAの2重鎖切断はクロマチンの弛緩部位に起こると確認された。以上の結果から、LINE-1の低メチル化を認めるがんではクロマチン構造が弛緩しているため、5-FUのDNA取り込みによるDNA2重鎖切断が起こりやすく、この機序が5-FUへの高感受性の背景にあると考えられた。 血液中に存在する遊離DNAから低メチル化LINE-1 の検出を試みた。PCRのプライマー配列を最適化することにより、大腸がん患者の血中遊離DNAから低メチル化LINE-1を検出することが可能であった。がんの血液診断に臨床応用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LINE-1のメチル化と5-FUの感受性が相関するメカニズムが解明され、このメカニズムを利用してLINE-1低メチル化とレトロポゾンの活性化を特徴とする大腸がんに対し新規治療法を開発する基盤が整った。また、大腸がんの血液診断に関しても、LINE-1の低メチル化をターゲットにできることを示唆する研究成果が得られ、今後、診断法開発においても研究推進できる状況になった。このように、当初予定した研究内容は概ね達成できたため、今後の研究展開の見通しを含めて順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
LINE-1の低メチル化とクロマチン構造および5-FUの効果との相互関係が明らかになったことを受け、5-FUの効果を増強させる方策としてクロマチン構造の変換を促す薬剤をスクリーニングし、新規治療法の開発へと研究を推進させる。また、病理組織からクロマチン構造を判定する解析法を開発し、臨床検体を用いたレトロスペクティブ解析から開始し、5-FUの個別化治療を推進させる。一方、LINE-1の発現自体はがんの増殖を亢進させることから、LINE-1抑制による新規治療法の開発も同時に進展させる。さらに、LINE-1の低メチル化をターゲットにした血液診断の感度・特異度を臨床血液検体で確認する。
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