研究概要 |
膵臓癌の解剖症例で,同一患者(A38)の(1)腹膜播種転移巣,(2)肝転移巣,(3)肺転移巣から樹立した細胞株を用いて,網羅的なProteome解析を行った.Proteome解析は,タンパクの培養細胞からの回収方法の違いによって,Secretome解析とMembrane proteomic解析に分けて検討した.(1)腹膜播種転移巣,(2)肝転移巣,(3)肺転移巣のタンパク発現を相対的に比較することによって,それぞれの転移巣に特異的に高発現するタンパクを同定した.同一症例における,これまでのゲノムの突然変異に関するシークエンス解析で(1)腹膜播種転移巣は本患者の癌ゲノムの進化の過程で比較的早期のクローン,(2)肝転移巣と(3)肺転移巣はその最終段階のクローンで類似していることが判明している(Yachida S et al,Nature2010,467:1114-7).それらのゲノム解析の結果と同様に,(2)肝転移巣と(3)肺転移巣は類似したタンパク発現のパターンを認めた. 興味深いことに,(2)肝転移巣と(3)肺転移巣はEpithelial-Mesenchymal Transition(EMT:上皮間葉移行)の間葉系マーカーの高発現を認め,逆に(1)腹膜播種転移巣では上皮系マーカーの高発現を,Secretome解析とMembrane proteomic解析の両解析で認められた.EMTの獲得が癌細胞の転移能と関連していることが強く示唆された.さらに,Secretome解析で(2)肝転移巣と(3)肺転移巣で高発現している新たなタンパクを発見し,転移に関する新しいバイオマーカーや転移機序の解明に有益である可能性が示唆された. さらに細胞株の培養細胞を回収してペレットを作り,ホルマリン固定した後,パラフィン包埋ブロックを作成した.網羅的なProteome解析でそれぞれの転移巣で高い発現を認めたタンパクに関して,市販の抗体を用いて免疫組織化学染色法を行い,そのタンパク発現を確認した.そして,それぞれの細胞株からRNAを抽出しDNA Microarray解析を行い,現在解析中である.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度から国立がん研究センター・研究所に異動したことで,研究に専念できる時間が増え,研究の遅れを取り戻せると考えている.また,国立がん研究センター・研究所におけるプロテオーム解析の専門家や米国・ジョンズ・ホプキンス大学の研究者と協力しながら,研究を遂行する予定である.
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