これまでの研究で、腸管切離吻合モデルでクエン酸モサプリドにより再生・新生した壁内神経系やそのネットワークを2光子励起顕微鏡によるin vivoイメージングにより生きたまま形態学的に評価するシステムを確立し、既存の中枢神経の光るトランスジェニックマウス(Thy1 プロモーター GFP マウス)を使って成功し、光る腸管神経の観察に成功した。 今年度は、神経再生新生作用を示す起原細胞が神経堤由来神経幹細胞であることを証明するために、腸管切離吻合術後、胎児の海馬や脳室底の神経幹細胞をPKH26という赤色蛍光色素でマーキングしたあと尾静脈よりThy1 プロモーター YFP マウスに移植し、その後2週間クエン酸モサプリドを飲水投与した。 そして、赤色蛍光を示す移植した神経幹細胞から分化した神経細胞(トランスプラント細胞)と、もともと存在した神経幹細胞が吻合部に移動してきて神経細胞に分化した黄緑色蛍光を示す細胞(ホスト細胞)のin vivoイメージングを同じ波長で同時に観察した。 手術をのみの腸管吻合部でも多少のPKH26陽性細胞は観察されたが、クエン酸モサプリドを飲水投与したマウスでは、吻合部にのみ観察されたPKH26陽性細胞とYFP陽性細胞数は有意な増加を示した。3次元で、夫々の細胞の分布をしらべたが、腸管表面から120 micromまでの深さにほぼすべての細胞が分布していた。トランスプラント細胞とホスト細胞の両者を比較すると、前者は後者の1/10の数であったが、その分布はほぼ同様であった。 これらの結果は、腸管切離吻合モデルでクエン酸モサプリドにより促進された再生・新生した神経細胞の起原細胞は、(神経堤由来)神経幹細胞である可能性が高い事が示唆された。 そのほか、クエン酸モサプリドの効果は、c-RETシグナルを介して起こる事をラット直腸とマウス回腸の切離吻合モデルで証明した。
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