研究課題/領域番号 |
23390341
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
水野 敏秀 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40426515)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 出口部感染症 / セグメント化ポリウレタン製多孔体 / 補助人工心臓 / カニューレ / ドライブライン |
研究概要 |
補助人工心臓の出口部感染症の発生は,その予後に係わる重要な要因の一つとして認識され,皮膚の感染防御機能を維持可能なデバイス開発およびケア法の検討は重要な課題と考えられる.本研究では,ヤギを用いた動物実験によりカニューレ出口部周囲部における皮膚性状の経時的変化を解析し,出口部感染症発生との関連について検討を行った. 実験では,塩化ビニルチューブ(外径20 mm)をセグメント化ポリウレタン製多孔体カフ(厚さ約2.0 mm,長さ100 mm)で被覆した模擬カニューレを作成し,これらを成ヤギの皮下から表皮を貫通させ,外科的に留置した.実験期間内は出口部の消毒,被覆材など感染防止処置は一切行わなかった.出口部周囲皮膚の評価として,経時的に皮膚pH,真皮組織水分量,表皮温度,皮膚血流量を測定し,出口部の細菌検査を行った.また,細菌感染の発生をエンドポイントとし,出口部周囲組織について病理学的評価を行った. 植え込み後1か月時には表皮とSPUカフは良好な癒着が確認され,感染の徴候は認められなかった.しかしながら,4か月後にすべての出口部に化膿性炎が確認され,摘出が行われた.実験期間中,皮膚pHは,周囲皮膚と比較し,術後2ヶ月目より経時的に上昇し,また術後の皮膚血流量は出口部周囲で常に低値を示していた.さらに,表皮温度、真皮組織血流量は,感染兆候に先立って増加する傾向にあった.出口部の細菌群は,皮膚pHの変化と共にAcinetobacterium.appなどの常在菌からArcanobacterium pyogenesなどの化膿性菌が優勢な状態に変化し,感染確認後にはγ-streptococcusが主に検出された.今回の検討により,カニューレ皮膚貫通部では,周囲組織からの癒着を促進させたにも係わらず,出口部皮膚性状は経時的に変化し,細菌感染が起こりやすい状態へ陥ることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は,新規に開発されたセグメント化ポリウレタン製多孔体の物性評価および素材の制御技術の向上を主体に進め,各開発品(スキンボタン,体内留置用カフ)に適した生体適合材料としての条件を検討している. 本年度の研究によって,補助人工心臓療法で課題となっている出口部感染症について,病態発生学的な解析を行い,出口部感染症の病理学的な側面を明らかにした.かかる結果は,従来から開発を行ってきたセグメント化ポリウレタン製多孔体を使用したスキンボタンの設計に活用し,より高機能的なデバイスへと発展させることが可能と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,本計画の最終年度として,開発対象デバイスであるスキンボタンについて,実験素材を実際の使用状態に合わせて整形し,人工心臓埋め込み時の皮膚貫通部に使用する皮膚貫通部被覆デバイス(スキンボタン)を製作する.形状は皮膚との接着面積が多くまた創部が外界と直接接しないように検討されたものである.これらを当研究室 で行われている1~数ヶ月間の慢性動物実験時に使用し,被覆デバイス・皮膚間の組織再生性,同部の物理的外力に対する抵抗性および感染抵抗性などについて総合的に検討を行う.評価には,体重60 kg の成ヤギ1 頭を用い,試作モデルを体壁に外科的に植え込こむ.術後急性期を除き,消毒・ドレーピング等は全く行わない予定である.試作モデルは術後6 ヶ月に摘出して病理的検索を行う.実験期間を通じて局所感染の有無や,ドライブラインへの相当な外力負荷に対しても皮膚からの剥離等の傷害を生じるかどうかについて評価を行う.病理学的検索では,フランジ内に成熟した肉芽組織浸潤および血管新生の状態について観察を行う. また,本開発品は,ブリヂストン社と共同で開発を行い,現在では医療機器メーカーであるニプロ社に製造技術などの譲渡が完了している.同社は,補助人工心臓や人工透析器などを製造販売技術を有し,開発パートナーとして最適である.現段階では,同社において医療機器として,他デバイスへの適応の検討や,医療機器としての製造承認にむけて,大量生産に向けたプラント技術の開発や,生物学的安全性試験に向けた原材料の選定などを実施している
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