脳毛細血管は、他の臓器の毛細血管とは異なり、内皮細胞と基底膜に裏打ちするアストロサイトが加わって血液成分の物質透過が制御されている。最近、脳小血管障害の原因遺伝子について複数の報告がなされおり、脳小血管が脆弱性を有する機序が明らかになりつつある。我々は脳小血管の出血を引き起こす遺伝子変異が知られているIV型コラーゲンα1鎖に着目し、研究を行ってきた。IV型コラーゲンは脳小血管の基底膜を構成する主要成分であり、脳毛細血管内皮細胞およびその周囲に存在するアストログリアがIV型コラーゲンに接している。脳血管の基底膜の変化が血液-脳関門の破綻や脳小血管の出血を引き起こすことは示唆されているが、その詳細な機序は不明である。 我々は前年度、マウス静脈内にTNFαを投与する脳炎モデルを作製した。このマウス脳炎モデルにおいては、血液-脳関門の破綻について既に報告がなされているが、出血については報告が無く、調べたところ明らかな出血は観察されなかった。そこで、我々はWestern blot法を用いて、IV型コラーゲンの分解について検討した。本年度においても、脳炎モデルマウスを用いて実験を続け、IV型コラーゲンが分解されることを明らかにした。さらに免疫組織染色法によっても、脳炎モデルマウスにおいてIV型コラーゲンの消失を確認した。また、IV型コラーゲンの分解は血液-脳関門の破綻の時期と一致しており、両者の現象には関連性のあることが示唆された。従ってIV型コラーゲンの分解は血液-脳関門の破綻と関連するが、出血には何らかの別のメカニズムの関与が示唆される。 本研究は、細胞外マトリックスの異変が脳血管障害を引き起こすという機序の一端を示すことができたと考えられる。
|