本年度は研究計画に従って目的3(オピオイドの鎮痛作用に対する脊髄5-HTの役割を検討する)のデータ解析と論文化を行った。 臨床においてはオピオイドが神経障害性疼痛に対して無効な場合がある。この現象には様々な説が唱えられており、例えば神経障害性疼痛時に5-HTは、脊髄後角の5-HT3受容体を介して痛みの増強に働くとの報告がある。オピオイドの鎮痛作用の一部には下行性抑制系の活性化が関与するとされている。そこで脊髄後角で増加した5-HTが、モルヒネの神経障害性疼痛に対する鎮痛作用の減弱に関与している可能性を検討し、以下の結果を得た。 (1)正常ラットと神経障害性疼痛のモデル(Spinal nerve ligation; SNL)にモルヒネを全身投与後、Paw-pressure testで下肢に機械的侵害刺激を与えて逃避閾値を観察すると、正常ラットに対しては強い鎮痛作用が認められたが、SNLの痛覚過敏に対しては効果がほとんどなかった。(2)脊髄に5-HT3受容体拮抗薬を投与すると、モルヒネの正常ラットへの鎮痛作用は減弱したが、SNLの痛覚過敏に対してはモルヒネの鎮痛作用が強まった。(3)脊髄の5-HTニューロンを特異的な神経毒で破壊すると、モルヒネの正常ラットへの鎮痛作用は減弱したが、SNLの痛覚過敏に対しては鎮痛作用が強まった。(4)モルヒネを全身投与して腰部脊髄のモノアミンの変化をマイクロダイアリシスで観察すると5-HTだけ増加した。(5) RVMの5-HTニューロンを免疫染色法で観察すると、モルヒネの全身投与後に興奮性マーカーであるc-fosが発現していた。 以上の結果からモルヒネのようなオピオイドを全身投与した時の鎮痛作用は、神経障害性疼痛に対しては減弱する。オピオイドはRVMの5-HTニューロンを活性化して脊髄で5-HTを増加させるが、この増加した5-HTが5-HT3受容体を介して正常な場合には強い鎮痛作用を発揮するが、神経障害性疼痛に対する効果を減弱させていることが明らかになった。
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