研究課題
(1)マウス実験において、父親抗原特異的制御性T細胞(PA-Treg)を同定する系を確立した。アロ妊娠系では、Ki67+PA-Treg(父親抗原を認識し活性化されたTerg)が着床1日前の子宮所属リンパ節(uLN)で増加し、着床後に妊娠子宮で増加した。一方、同系マウス妊娠では、このような変化を認めなかった。精嚢除去(精漿欠損)、精管結紮(精子欠損)雄マウスを作製し、アロ妊娠で交配すると、精嚢除去マウスでのみuLN でのPA-Tregの増加が認められなかった。またTregを誘導する免疫制御樹状細胞の誘導も認められなかった。即ち精漿がPA-Tregを誘導し着床を促進していることを初めて証明した。ヒトではFoxp3陽性細胞はnaiive Treg、機能的Treg、免疫抑制のないeffector T(Teff)に大別できる。ヒト妊娠において、流産例を胎児染色体正常と異常に大別したところ、胎児染色体正常流産でのみ子宮内膜で機能的Treg細胞が減少し、Teff細胞が増加していることが判った。ヒト胎児染色体正常流産では、Treg減少による免疫寛容破綻が起こっていることを初めて示した。(2)PA-Treg細胞特異的mRNA発現:PA-Tregは少数しか存在しないため、このプロジェクトは細胞収集に極めて難渋した。PA-Treg特異的に亢進する166遺伝子と低下する103遺伝子が同定できた。今後、詳細に解析するとともに、制御性NK細胞の特異的に発現するmRNAを同定する予定である。(3)NK細胞はT細胞に比し、多種類の胎盤由来miRNAを含んでいた。脱落膜NK細胞は末梢血NK細胞に比し、212種類のmiRNAを多く含有しており、うち胎盤由来miRNAは20種類であった。mRNA発言は脱落膜NK細胞で157種類が低下しており、うち144種類がmiRNAの標的遺伝子候補であった。
2: おおむね順調に進展している
マウス妊娠の免疫学的寛容機構については、妊娠時期、臓器別の細胞に渡る検討が、ほぼ終了しており、また樹状細胞の性状も精漿の影響で、制御性T細胞を誘導する免疫制御樹状細胞に子宮で誘導されることを、細胞表面マーカーで明らかにした。現在はin vitroでの母親、父親マウス間のリンパ球混合培養試験を用いた抗原提示能ならびにTreg細胞への分化能を検討している。ヒト妊娠維持機構については正常妊娠例と流産(胎児染色体正常、異常)の3群に大別し、胎児が正常であるにも関わらず、流産した症例でのみ、脱落膜での機能的Treg細胞が減少することを初めて見い出した。また末梢血では、このような変化を認めないことも判明した。これらの研究テーマは予定通り達成できている。父親抗原特異的Treg(PA-Treg)細胞特異的なmRNA発現をアレイ解析で行なったが難渋した。当初、細胞核に存在するFoxp3を染色した後にflow cytometryにて細胞を純化していたが、細胞膜透過性を高めるbufferを使用したため、十分量のmRNAを得ることができなかった。3回失敗したため、この方法を諦め、細胞表面マーカーでPA-Treg細胞を純化し、ようやく結果を得ることができた。元来、 Treg細胞のmRNA量は少ないため、多数の細胞を集めるのに多くの時間を要したが、成果を出すことができた。本年度には制御性NK細胞と樹状細胞につき新たに検討を進めることにした。末梢血ならびに脱落膜からNK細胞、T細胞を純化して、mRNA発現、miRNA発現を検討し、胎盤由来miRNAが、母体NK細胞に取り込まれ、細胞傷害性を誘導する遺伝子発現を負に調節していることを明らかにした。現在、あと3症例の正常例と5例の流産例を追加することを計画しており、順調に進行している。
マウス妊娠におけるPA-Tregの変化と臓器別分布については、論文作成を行なっている。免疫抑制樹状細胞については、表面マーカー上の解析は終了したので、flow cytometryで同細胞を純化し、機能解析を行なっている。これが終了すれば論文を作成する。ヒト妊娠については、胎児が完全異物である卵子提供妊娠に注目し、末梢血、placental bed biopsyを20症例集めることができた。その結果、ラセン動脈のextravillonx trophoblast(EVT)による置換が不十分なこと、マクロファージ数は変化がないが、NK細胞、 CD4+T細胞、CD8+T細胞、Treg細胞ともに卵子提供妊娠で減少していることを見い出した。これを妊娠維持機構の破綻と考えられる妊娠高血圧腎症(PE)と比較すると、ラセン動脈の置換不全、NK細胞の集簇不全、Treg細胞の減少は共通であったが、マクロファージ数はPEで減少するのに対し、卵子提供妊娠では変化せず、CD4+T細胞、CD8+T細胞ともPEでは減少しないという差異も認められた。また血液をストックしているので、これらの細胞の表面マーカーから制御性T細胞や活性化NK細胞、活性化T細胞の変化を検討する予定である。マウス妊娠子宮から免疫抑制作用のあるCD25+NK細胞を抽出し、通常のCD25-NK細胞とのmRNA発現パターンを比較検討することを予定している。同時に免疫抑制樹状細胞と通常の樹状細胞を妊娠子宮から単離し、mRNA発現パターンを解析し、その特徴を明らかにする。ヒト妊娠で正常妊娠例、流産例の脱落膜よりNK細胞中のmRNA発現、miRNA発現を網羅的に解析し、胎盤由来miRNAが母体免疫能を調節している機序を明らかにする。すでに正常例でのデータがあるので、流産例を検討し、まとめた成果を論文にする。
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