研究概要 |
近年、卵巣チョコレート嚢胞の癌化が問題となっているが、その発生メカニズムは明らかになっていない。本研究では、卵巣チョコレート嚢胞上皮細胞を手術検体から純化し、我々がこれまでに開発してきた上皮細胞不死化プログラムを用いて延命、不死化細胞を樹立することをまず第一の目的とした。その結果レンチウイルスベクターシステムによるcyclinD1/cdk4/TERTの遺伝子導入にて安定的に継代可能な不死化細胞を樹立し得た。本研究ではウイルス癌遺伝子を用いない系を目指しており、以後の実験はcyclinD1/cdk4/TERTにて不死化した内膜症上皮不死化細胞を用いることとする。なお本細胞は微量であるがER, PRを発現しており、プロゲステロン反応性を保持していることを確認した。またマウス造腫瘍能などの癌化形質は獲得していないことも確認済みである。 次いでこの不死化細胞に活性化型のK-ras変異アレル、p53のdominant negative formを導入した(ベース細胞)がマウス造腫瘍能などの癌化形質の獲得には至らなかった。そこで内膜症合併の卵巣癌の臨床材料による遺伝子解析の結果判明した遺伝子異常をin vitroにて細胞に導入すべく遺伝子操作を加えたところ、上述したベース細胞にc-Mycの過剰発現を誘導すると癌化性質を有する細胞を樹立し得た。さらに、PIK3CAの遺伝子変異あるいはAktの過剰発現でも同様の癌化形質を有する細胞を樹立し得た。PIK3CAの遺伝子変異あるいはAktの過剰発現はそのシグナル伝達系の末路で最終的にmycのリン酸化に帰結し得ることから、Mycの過剰発現と質的に同等の効果をもたらすものと考えられた。以上、内膜症からのin vitro 癌化モデルを作製し得た。内膜症細胞の癌化にはK-ras遺伝子変異、p53機能の失活、Mycの過剰発現の3 stepが重要であることが明らかとなった。このモデルを用いてさらに癌化に必須の各ステップを解析することで、分子標的治療のターゲットを絞り込める可能性がある。
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