RAMP-2ノックアウトマウス、Kimbaマウスなどの遺伝子改変マウスにおいて、蛍光眼底造影、光干渉断層計の所見を採る方法を開発し、人間と同じ網膜症の検査が施行できる体系を作ることは、糖尿病網膜症に対する薬物療法を開発する上で、重要である。人の眼球の直径が平均25mmであるのに対して、マウスの眼球は5mm前後である。このため、光学系に大きな違いが有り、人間の患者で撮影されるような、きれいな検査所見を取得することが困難であった。我々は、眼底撮影には前置レンズを工夫すること、内視鏡を使用すること、散瞳の方法、顎を載せる台の工夫などで、高精度の画像を撮影可能とした。蛍光眼底造影で、無灌流領域を撮影可能となったことにより、灌流正常の部位と、無灌流領域をわけて、標本を採取できるようになった。このため、それぞれの部位でreal time PCRを行えるようになり、無灌流領域ではvascular endothelial growth factor (VEGF)の過剰発現が起きていることが初めて、直接的に確認できるようになった。Platelet derived growth factor (PDGF)の発現量には、本実験系では変化がなかった。さらに、同部位にレーザーを行うと、VEGFの産生が正常レベルと同程度に低下させることができることが、これも直接的に計測確認できた。さらに、光干渉断層計の所見では、網膜剥離、嚢胞用網膜浮腫などの所見を確認できるようになったので、今後の網膜浮腫の研究に極めて有用と考えられる。 これらの測定計を使って、無灌流領域のレーザーがVEGFを下げることを示唆する所見が得られた。また、アドレノメデュリンは網膜血管新生および網膜浮腫の抑制に、効果を示すことを示唆する所見が得られた。糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫について、薬物療法の開発を行う実験系が確立できたと考えている。
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