研究課題/領域番号 |
23390403
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷原 秀信 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (60217148)
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研究分担者 |
井上 俊洋 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (00317025)
川路 隆博 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (30423677)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 緑内障 / サイトカイン / 房水 |
研究概要 |
これまでに蓄積した房水データに症例を追加して解析を行った。原発開放隅角緑内障52例と落屑緑内障56例に対して線維柱帯手術を行う際に房水サンプルの採取を行った。手術開始と同時に角膜輪部から30ゲージ針を用いて房水を70-100 μl採取した。この時血液や組織によるコンタミネーションを避けるよう注意を払った。コントロールは緑内障を有しない白内障69例とした。ジェネティックラボ社に依頼しサイトカイン濃度の定量を行ったところ、緑内障症例においてIL-8、MCP-1、EGF、PDGF-AAの濃度が上昇しており、TNF-α、VEGFの濃度は下降していることが示された。このうち最も高濃度であったMCP-1の濃度に影響する背景因子を重回帰分析にて同定したところ、白内障手術既往が最も有意にMCP-1濃度を上昇させる因子であった。その他、高齢、男性も有意な因子であった。眼圧、病型、点眼数、治療期間などは有意ではなかった。これらの結果はサンプル数が少なかったときと同様の傾向であった。このMCP-1の産生源を調べるために、ウサギの組織を採取しRT-PCRを行った。正常眼において、虹彩、毛様体においてMCP-1の発現をみとめ、角膜、水晶体嚢においては発現をみとめなかった。ウサギに対して超音波水晶体乳化吸引術を行い、同様に眼組織よりMCP-1発現を調べたところ、角膜、虹彩、毛様体におけるMCP-1発現が上昇するものの一過性で、水晶体嚢における発現のみが経時的に上昇していた。免疫染色にて同術後の水晶体嚢を観察したところ、前房に暴露された水晶体上皮細胞においてMCP-1の発現が確認された。このことから、通常の房水内MCP-1の産生組織は主にぶどう膜だが、白内障術後は水晶体上皮細胞からも産生されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた房水サンプル数を白内障症例、原発開放隅角緑内障症例、落屑緑内障症例のいずれからも十分数確保し、その全てに対して順調に測定および解析を行うことができた。その結果、濃度が増加していたサイトカインと増殖因子を同定し、その濃度に手術既往や年齢など症例の背景因子が与える影響についても統計学的に十分な検討を行うことが出来た。またウサギを用いた動物実験と分子生物学的手法によって、主要なサイトカインであったMCP-1の前房内における産生源を同定することが出来た。臨床サンプルにおいてMCP-1濃度に最も影響を与える因子は白内障手術既往であったが、その原因は水晶体上皮細胞にあることも動物実験によって解明した。すなわち、白内障術後に水晶体上皮細胞は房水に直接暴露されるようになるが、これにより形質の変化した水晶体上皮細胞において、MCP-1の発現が確認された。以上より、本研究課題の進展においては、臨床データから得られた結果をもとに動物を用いた基礎的研究を行い、そのメカニズムを明らかにするに至ったと考えられる。これらの研究結果から得られた知見はは本研究課題が本年度の目的としていたことであるため、現時点での本研究課題はおおむね順調に進展している、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である平成25年度は、房水サイトカインが緑内障手術に与える影響に焦点を絞る。まず臨床研究として、房水サンプル採取を行った症例について、その手術成績を追跡調査する。評価項目は視力、眼圧、濾過胞形状である。手術効果の検証はKaplan-Meier生存曲線を用いた解析を行う。2回連続して設定眼圧を超えた場合、光覚を失った場合、眼圧下降のために追加手術を行った場合のいずれかを満たした時点を死亡と定義し、サイトカイン濃度の危険率を評価する。 次にウサギをを用いて緑内障手術の動物モデルを作成する。全身麻酔下にて結膜を切開し、輪部近くの強膜から30Gマイクロカニューレを留置する。結膜を縫合し、濾過胞の形成を確認する。術直後と術翌日に前房内にサイトカインを注入し、無処置のコントロールと眼圧の変化および以下の組織学的検討によって比較する。注入2日後および7日後に眼球を摘出して、4%パラフォルムアルデヒド溶液で固定し、クライオスタットを用いて凍結切片を作成して各種染色を行い解析する。またBrdUを眼球摘出前に腹腔内投与し、組織像にてBrdU陽性細胞を定量することで、結膜下の細胞増殖を各群で比較して評価する。上記in vivoの実験で効果がみとめられたサイトカインについてはヒトテノン嚢線維芽細胞を単離、培養し、その効果を検討するとともに分子メカニズムを解明すべく解析を加える。24時間無血清培地で培養した後、培地にサイトカインを添加し、細胞増殖に対する影響を検討する。比較は各種薬物添加後48時間で行い、BrdUに関しては固定6時間前に添加し、2時間前にウォッシュアウトする。以上検討した後、複数の反応がみとめられる場合、各反応に関連する細胞内シグナルをリン酸化特異抗体を用いたウエスタンブロッティングなどの手技を用いて確認し、互いの反応とのクロストークを化学生物学的に検討する。
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