濾過手術の成績を増悪させる要因として、手術既往眼や緑内障眼における房水中サイトカイン濃度の同時多発的な上昇が強く関与する可能性が示唆されていたため、その臨床的意義を解明し、房水流出路への生理的影響、緑内障眼における病的意義、そして濾過手術への副次的影響の検証を行うことを目指した。前年度までの解析によって、緑内障症例においてMCP-1の濃度が上昇しており、かつ絶対値も他のサイトカインと比較して高いことがわかっていた。 平成25年度は房水サンプル採取を行った症例についてその手術成績を追跡調査した。手術効果の検証はKaplan-Meier生存曲線およびCox hazards modelを用いた解析を行った。2回連続して設定眼圧を超えた場合、光覚を失った場合、眼圧下降のために追加手術を行った場合のいずれかを満たした時点を死亡と定義し、サイトカイン濃度の危険率を評価したところ、基準眼圧を21mmHgとした場合には房水MCP-1濃度が高い群においては低い群と比較して有意に手術成功率が低いことが判明し(P=0.018)、Cox hazards modelによる多変量解析においても房水MCP-1濃度は有意な因子であった(P=0.043)。次にウサギをを用いて緑内障手術の動物モデルを作成し、術直後と術翌日に前房内にMCP-1を注入し、無処置のコントロールと眼圧の変化を比較したところ、有意差はみとめなかった。この原因を探るため、前房内のMCP-1濃度を経時的に測定したところ、注入6時間後にはMCP-1濃度が急激に下降し、12時間後には注入前のレベルまで下降してしまうことが分かった。したがって動物モデルを用いた解析による検証は困難であることが判明したが、臨床症例において房水MCP-1が手術成績に影響を与えることが明らかとなった。
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