研究課題/領域番号 |
23390408
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
光嶋 勲 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (60101804)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リンパ浮腫 / ICG / リンパ管静脈吻合術 / 合併外科治療 / 機能的リンパ移植術 |
研究実績の概要 |
①完治例の分析 各種リンパ浮腫における完治例の分析を行った結果手術の効果は大きく、特に発症後早期例ではリンパ管静脈吻合術(LVA)のみで上肢では70%が完治に近い状態に回復すること、また下肢例でも30%、重症例も含めた全症例で約30%がほぼ完治に至った。一時性リンパ浮腫でもLVAのみで20%程度は完治することが判明し、リンパ嚢胞例においては約50%でリンパ浮腫の発症を予防できた。結果、早期・予防的なLVAが極めて有効である。 ②重症リンパ浮腫に対する合併外科治療法(正常な機能をもつリンパ管移植+LVA+部分的脂肪除去術)を開発し、約120例のフォローを行った結果、約10%で圧迫不要、50%で圧迫は有するが著明な効果を得た。このことより主流であったリンパ節移植法は最近合併症が多く、リンパ管移植術がリンパ節移植法に代わる兆しが出始めている。欧米で主流であったリンパ節移植が我々の提唱するリンパ管移植法に代わるであろう。 ③世界のリーダーとしての貢献 過去25年間で、筆頭研究者らは外科的治療法を開発し、世界に発信してきたが、今年度も合併型外科治療法を世界に先駆け、国際学会や講習会、海外での招待講演&ライブサージャリーに於いても発表している。その評価はアメリカ微小外科学会で栄誉のあるバンキ記念講演の発表の機会を与えられ、秋にはアメリカ形成外科学会にてマリニアック記念講演でも発表した。ロシアシベリア大学ではライブ手術を行い、シベリア州知事の要請により、ロシア初のシベリア大学微小外科センター病院の建設が予定されている。 ④手術手技の指導法開発と啓蒙活動 過去10年間で、リンパ浮腫の外科的治療法を啓蒙し、効果的な手術の指導法を開発してきた。特に外国人医師にはこの手術手技が極めて難しいため最近は厚生労働省の外国人医師への仮医師免許制度を利用して彼らの実際の臨床における手術手技の指導を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①過去1年間、重症リンパ浮腫に対する合併外科治療の完治例が約10%得られ、さらに50%が著効例であった。これは予想以上の効果でありすでに海外の関連学会や招待講演で報告し、大きな反響を得ている。 ②1年間に国内海外からの見学者・留学生が年間約50名当科に訪れている。これらの見学者に対して我々のこれまでの知見と手術術式を惜しみなく教育している。
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今後の研究の推進方策 |
①リンパ外科学の設立 過去の症例に於いてリンパ浮腫に合併する血管肉腫の症例を多く経験している。ほとんどの症例は、短期間に死亡するが数例で腫瘍消失例がでている。これらの症例の共通点は、過去にLVAがなされており、この手術により腫瘍免疫が活性化され、腫瘍が消失したことが考えられる。さらにリンパ浮腫に合併した先天性免疫異常疾患や新生児乳び胸腹水症で症状が軽減され通常であれば感染症で死亡する例がLVAによって感染症を克服し長期生存する可能性が出てきている。つまり、リンパ系の外科治療でリンパ浮腫のみならず先天性免疫異常疾患や悪性腫瘍の根治術の可能性がでてきている。これにより将来血管外科と同様なリンパ管外科を独立した外科の一分野として設立すべきであろう。 ②予防的リンパ管静脈吻合術の啓蒙 これまでの長期の経過を追うたびにこの術式の重要性が増してきている。今後はこの術式の啓蒙を婦人科医や乳腺外科医に広めていく必要がある。これにより将来的に全世界のリンパ浮腫の患者を劇的に減らすことができると思われる。 ③リンパ管外科治療の海外への啓蒙活動 現在多くの外国人が当科に見学・研修に来ているがより多くの外国人にも公開し、手術ができる体制を整えたい。東大には国際診療部が設置され、専門の職員が受け入れを調整できるようになった。国際診療部とタイアップし、多くの外国人に対して技術と知識を教育したい。また、国外でのライブサージャリーや講習会を各国のリーダーとコラボして回数を多く行いたい。現在計画が進んでいるシベリア大学との連携で海外の拠点病院を創設するという案を他の国にも進めていきたい。この技術を求めている国は世界中広く、各国に1施設が必要になるであろう。 さらに医師のみでなく国内外のコメディカル、特にリンパ浮腫を専門とする理学療法士・看護師たちに外科的治療法では、早期・予防的LVAの重要性を啓蒙していく必要がある。
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