研究概要 |
病原性レンサ球菌の感染実験においては,好中球のETosis細胞死と,ETosisに伴う「細胞外の異物捕獲構造物(Neutrophil extracellular traps ; NETs)」による新規の免疫システムの作動が報告されているが,好中球にNETsを産生させるレンサ球菌由来物質は不明である.特に,レンサ球菌属の肺炎レンサ球菌感染症においては,感染肺組織に多量の好中球浸潤し,NETs様構造物が展開されることが,申請者らのマウス予備実験,および臨床現場におけるヒト肺炎レンサ球菌感染症において確認されている.そこで,好中球NETs免疫システムの作動因子について,A群レンサ球菌に加え肺炎レンサ球菌の分子群から同定を試みた. 平成23年度繰越し計画に基づき,レンサ球菌由来のNETs誘導因子を同定した結果,該当分子はenolaseタンパクであった.そこで引続き,enolase遺伝子欠失変異株の構築を試みたが,enolaseはレンサ球菌の生存に必須な酵素であり,欠失不可能な遺伝子であることが明らかになった.そこで,遺伝子欠失実験を停止し,特異抗体によるenolaseの機能阻害実験に代替手段を求めることにした.ウサギに免疫し作製したenolase抗血清を用いて,特異的IgGを精製した.同抗体を用いた阻害実験および前年度の組換えenlaseを用いた機能解析実験から,enolaseがNETs誘導活性を有することが示された.平成23年度までの進捗結果と本繰越しプロジェクトの結果を統合し,英文の学術専門誌であるJournal of Biological ChemistryならびJournal of Oral Scienceに投稿した.その結果,それぞれ専門家のレビューを経て受理され,国内外の研究者に誌面ならびにオンラインで広く公開された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画調書に記載した新規のNETs誘導因子として機能する菌体表層タンパクの同定と性状解析を進めることができた.さらに,中間成果報告として,研究結果の一部を国際的な学術専門誌に投稿したところ,専門家による審査に附された後に受理されたため,「(1)当初の計画以上に進展している」と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,計画調書に従い研究を進める.すなわち,平成23年度繰り越し研究までに開発・蓄積した実験手技を応用・発展させ,「NETs免疫系」を作動させるレンサ球菌由来の因子を同定し,感染防御に寄与する免疫賦活剤としての可能性を検索する.最終的には,抗生物質と併用可能な感染症治療薬開発の基盤とすることを目指す.
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