研究課題/領域番号 |
23390429
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
新垣 理恵子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (00193061)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 自己免疫疾患 / 性差 / シェーグレン症候群 / 性ホルモン / Th17細胞 / エストロゲン / 唾液腺 / Treg細胞 |
研究概要 |
多くの自己免疫疾患には女性優位に発症するという性差が見られ、病態形成にエストロゲンの関与が指摘されている。特にシェーグレン症候群(SS)は閉経期前後の女性を中心に最も女性優位に発症する疾患であることから、申請者らはシェーグレン症候群動物モデルを用いてエストロジェン欠乏が引き起こす自己免疫疾患発症機構の解明に取り組んできた。本研究では性ホルモンが免疫応答制御に及ぼす作用の分子機構を解明することによって、女性優位の自己免疫疾患を根治する革新的治療法や予防法の確立を目的として実施する。 B6マウスに卵巣摘出によるエストロジェン欠乏を誘導すると、SSの標的臓器である顎下腺・涙腺組織でのアポトーシス増大が認められ、このアポトーシス誘導がSS発症に関与することを私達は報告してきた。しかしB6マウスでは、炎症細胞浸潤を認めることができない。そこでSSモデルマウスであるNODマウスに卵巣摘出を施すと唾液腺への炎症細胞浸潤は未処置群に比較して早期に出現しその程度も増悪することを確認した。唾液腺浸潤T細胞のサブセットを解析するとIFN-γ産生Th1細胞およびIL-17産生Th17細胞が優位に増加していた。NOD/scidマウスへのNODリンパ球移入による糖尿病誘導はよく用いられる技術であるが、SSに関しては報告がない。そこでNOD/scidマウスへNODマウスの頸部リンパ節リンパ球移入によるSS様病態誘導系を確立し、さらにNOD/scidに卵巣摘出を施してから、移入実験を実施するとより強い病態悪化が観察された。これらの結果から移入するリンパ球をTreg細胞除去細胞群、Th17誘導T細胞群などで実施して、発症にかかわる細胞サブセットを絞り込むことができると考えている。これらの解析のためにエストロゲン合成酵素であるアロマターゼKOマウスをNODへバッククロスしたマウス等を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己免疫疾患は免疫調節のバランスがくずれ、自己に対して免疫応答を引き起こすことにより発症する疾患であり、近年、罹患率は上昇傾向にある。このような自己免疫疾患の大きな特徴はその殆どが加齢に伴って発症し、閉経期以降の女性に優位に発症することであり、自己免疫疾患発症に性ホルモンの影響が大きいと考えられる。申請者らは、最も女性優位に発症するシェーグレン症候群を代表的疾患として位置づけ、女性ホルモンと自己免疫疾発症との関わりを解明することを目的とした。 エストロゲン欠乏による自己免疫疾患発症メカニズムを解析するにあたり、T細胞だけではなく標的臓器の解析も必須である。そこで炎症浸潤が起きないB6マウスの卵巣摘出群とSham群、炎症浸潤が増強されるNODマウスの卵巣摘出群とSham群の唾液腺病態変化をマイクロアレイ遺伝子発現解析することよって、B6群からは唾液細胞の分子動態が、NOD群からは浸潤T細胞を含む唾液腺での分子動態を解析することが可能である。解析の結果、ケモカインCCL5や制御性T細胞のマスター転写因子であるFoxp3が、エストロゲン欠乏依存性に特徴ある動態を示すことを認めた。エストロゲン欠乏に依存して発現増強あるいは減少するこれらの分子について、ヒト唾液腺細胞株や初代培養唾液腺細胞またT細胞を用いてSS発症への関与のメカニズムについてさらに詳細な検討が必要であるが、いくつかの候補分子がピックアップできたことにより、本年度の実施計画は概ね達成できたと考えている。さらに複数の病態の異なるSSモデルマウスを使用して得られた結果を総合的に解析することにより、エストロゲン欠乏による標的臓器の病態変化および炎症浸潤細胞を誘導するメカニズムを明らかにしていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
自己免疫疾患病態発症メカニズムを解析するにあたり、免疫担当細胞と標的臓器細胞の相互作用は非常に重要であり、現在でもなぜ臓器特異的な自己免疫疾患が発症するのか等、明らかにされていない点が多い。エストロゲンは標的臓器と免疫担当細胞の両方に大きく影響するホルモンである。私達はエストロゲン欠乏により唾液腺・涙腺特異的にアポトーシスが誘導され、標的臓器局所でのMHCクラスII発現の増大等を今までに確認している。一方で、自己免疫疾患発症におけるエストロゲン欠乏によるT細胞の動態を解析し、所属リンパ節や唾液腺浸潤T細胞ではTh1およびTh17細胞が増加していることを見出し、NOD/scidマウスへのこれらのT細胞移入実験により、病態発症に関わる免疫担当細胞サブセットを明らかにしていきたいと考えている。同時に、唾液腺細胞やT細胞におけるエストロゲン欠乏に依存したケモカインおよびケモカインレセプターの挙動を詳細に検討し、標的臓器細胞へT細胞が浸潤するメカニズムについてトランスウェル移動アッセイを利用して検討したいと考えている。臓器細胞と免疫担当細胞の相互作用の解析の結果は、エストロゲン欠乏依存性のSS発症メカニズム解明に大きく寄与できると考えている。
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