本研究では、Myd88遺伝子を欠損したマウスを利用することにより、唾液腺の免疫学的機能にMyD88がどのように関与しているのか検討してきた。 昨年度までの成果として、MyD88は唾液腺におけるB細胞の浸潤の制御に関与していることが明らかになりつつあった。その後の詳細な解析により、野生型の雌マウスの唾液腺では、シェーグレン症候群様の病的変化が徐々に誘導されてくるが、MyD88欠損マウスではそのような変化が見られないことが分かってきた。特に、三次リンパ組織と呼ばれる異所性のリンパ組織形成の機序が雌マウスの唾液腺では緩やかに誘導されるが、この際に起こる高内皮細静脈特異的な細胞表面タンパク質であるGlyCAM-1の発現上昇や、GlyCAM-1の翻訳後修飾に関与する硫酸転移酵素(GlcNAc6ST-2)の発現上昇、ケモカインCXCL13やCCL19の発現上昇、あるいは動脈周囲に観察されるリンパ球浸潤がMyD88欠損雌マウスではほとんど観察されないことが分かった。しかしながら、野生型マウスで観察されるこれらのシェーグレン症候群に類似した病的なリンパ組織形成機序は解剖学的には明確でなく、個体差もかなり大きいことから、本年度途中からシェーグレン症候群のモデルマウスであるNODマウスを使用し、これらのマウスとMyD88欠損マウスとのコンジェニックマウス系統の作製に取り掛かった。現在、どのようにMyD88が唾液腺における異所性リンパ組織形成に関与するのかその分子機序が徐々に分かりつつあり、現在製作中のマウスが、今後の研究展開に非常に重要な役割を果たすものと期待しているところである。 本研究課題の研究計画は本年度が最終年度であったが、特定の研究成果が得られたというよりは、むしろ今後の研究展開につながる重要な基盤が整ってきた形になった。当然ながら、これまでの3年間の計画で得られた研究基盤を最大限に生かしながら今後も研究を継続していく予定である。
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