研究課題/領域番号 |
23390439
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡辺 誠 東北大学, 歯学研究科(研究院), 客員教授 (80091768)
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研究分担者 |
遠藤 康男 東北大学, 歯学研究科(研究院), 大学院非常勤講師 (50005039)
土谷 昌広 東北大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (60372322)
山口 哲史 東北大学, 大学病院, 助教 (50400263)
三好 慶忠 東北大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (10508948)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ブラキシズム / ヒスタミン / 咀嚼機能 / 慢性筋痛 |
研究概要 |
ブラキシズムは顎関節症の増悪因子であり,筋・筋膜症状を悪化させる.特に睡眠時のブラキシズムへの対応は,臨床的に困難であることが多い.しかしながら,治療法はスプリント装着という対症療法のみであり,他の治療選択肢は見当たらない.申請者らは,顎関節症に伴う筋症状に抗ヒスタミン薬が著効することを示したが,近年,抗ヒスタミン薬に過剰な筋活動を抑制する効果があることも見出した.本研究ではブラキシズム患者への抗ヒスタミン薬の抑制効果を示すことで,対ブラキシズムの新規治療法を確立することを目的として行った. 前年度,筋活動への影響を確認するため,強制歩行モデルを用いた抗ヒスタミン薬投与に伴う疲労耐性への影響について検討を行い,Fexofenadine(4mg/kgBW in Saline)の腹腔内投与により,有意に早期に歩行を停止し,易疲労性となることが明らかとした.その起因メカニズムとして,ヒスタミンによる微小循環維持機構の障害が考えられた.これを本研究の仮説基盤とし,本年度は咀嚼運動における影響について検討を行った. マウスを円筒形の筒に閉じ込め,筒前にプラスチック板を装着すると,自発的な咀嚼様運動が観察される.抗ヒスタミン薬投与により咀嚼様運動の活動量が有意な減少を示した.エバンスブルーを用いた血管浸透性による筋組織の血管浸透性について検討を行ったが,有意な差は認められなかった. 次に,筋組織内のグリコーゲン量に関しては,抗ヒスタミン薬の投与による有意な減少が認められた.加えて,ヒスタミンにより誘導されるとの報告のある内皮型一酸化窒素合成酵素の発現,および酸化窒素代謝物量が低下していることから,抗ヒスタミン薬がマウスで認められる咀嚼様運動において,その筋活動を阻害する可能性が示された. これらは,臨床試験から得られた,顎関節症状の改善という結果を裏付けるものと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗ヒスタミン薬による筋活動の抑制効果については、一般的な運動の実験モデルである強制歩行に加えて、咀嚼運動についても行った。その結果,我々の仮説を立証するうえで非常に有用な結果が出たものと考えられる。すなわち,抗ヒスタミン薬投与によって,運動時の筋組織内で生じる微小循環の上昇が障害され,結果としてその経時的な筋活動量の減少を促し,その疲労耐性を低下させることが示された.このことは、本年度が今後の研究計画を進める上で重要な指針を与えるものである. また、ヒスタミン関連遺伝子欠損マウス(HDC,およびH1R遺伝子)による咀嚼活動の低下に関する検討についても、遺伝子欠損マウスに咀嚼活動負荷を与え,それらの疲労耐性について検討を行う予定である.それらの結果は,持続的な咀嚼筋活動の維持,すなわちブラキシズムといった過剰な機能の発現を維持するうえでの,ヒスタミンの機能的役割を裏付ける貴重な情報を提供するものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
我々は過去にマウスに自発的な咀嚼活動を促し,そのプラスチック板の減少量から咀嚼活動抑制量を定量的に検討可能な実験系について報告を行っている.本年度は一般的な運動モデルである強制歩行によりその仮説を実証し,上記の実験系に加えてマウスの 咀嚼様運動の実験系を用いて抗ヒスタミン薬の筋活動抑制の効果とその作用起序について明らかとしたいと考えている.次年度に得られるであろう,抗ヒスタミン薬による咀嚼運動量の低下とその有効濃度の情報は,その後の抗ヒスタミン薬を用いた臨床試験に有用な情報を得られるものと予想される. また,ヒスタミン関連遺伝子欠損マウス(HDC,およびH1R遺伝子)による咀嚼活動の低下に関する検討についても,地震後の学内施設の移設などにより,進行が予定よりも若干遅れていると感じている.咀嚼活動負荷に対するヒスタミンの機能的役割について更なる分子生物学的メカニズムの解明を考えた場合,必須の実験であると考えられ.そちらについても随時,実験を遂行する予定である.
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