研究課題/領域番号 |
23390465
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
杉浦 剛 九州大学, 大学病院, 講師 (40322292)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / 上皮間葉移行 / Brachyury / 腺様嚢胞癌 |
研究概要 |
腺様嚢胞癌は、その特徴である著明な浸潤増殖や肺などへの転移により悪性度の高い腫瘍であるが、その浸潤転移機構については不明な点が多い。当教室で樹立した高転移性造腫瘍性腺様嚢胞癌細胞株( ACCS-M GFP )と、その親株である低転移性腺様嚢胞癌細胞株( ACCS GFP )の比較を行うことにより、転移関連分子の同定及び転移機構の解析を行っている。ACCS-M GFP はE-cadherinの消失、Vimentinの発現亢進を特徴とする、上皮間葉移行(EMT)様形質を示しており、腺様嚢胞癌の転移機構におけるEMTの関与が示唆された。ACCS-M GFPの自己複製能および幹細胞マーカーの発現を検討したところ、ACCS-M GFPは親株のACCS-GFPと比較し、スフェア形成能が亢進しており、自己複製能を有することが確認された。さらにACCS-M GFPは、Nodal、Pax6、Rex1、Lefty(胚葉系幹細胞マーカー)、Brachyury、Sox2、AFP(幹細胞分化マーカー)のいずれのマーカーにおいても、親株の2~3倍の発現を示しており、癌幹細胞様細胞であると考えられた。このことからEMTにおける癌幹細胞の関与が示唆された。 EMTおよび幹細胞制御因子を探るため、T-box転写因子BrachyuryをshRNAによりノックダウンした。すると、ACCS-M GFPにおける全てのEMT関連マーカー及び、未分化マーカーの発現が著明に低下し、EMT形質およびスフェア形成能は消失した。 以上より、 腺様嚢胞癌の転移過程におけるEMTの関与が示されただけでなく、その現象には癌幹細胞が重要な役割を担っていることが明らかとなった。さらに、T-box転写因子BrachyuryはEMTにおける中心的制御因子であり、幹細胞を標的とする癌治療法の有効な標的分子になり得ることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標として幹細胞の制御因子、つまり治療における標的因子としてBrachyuryが有効であるかを確認することであった。in vitroの実験系であるがこの事実が証明され、また、現在進行中であるがin vivoの系においても証明されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
in vivoにおける癌浸潤転移に対するBrachuryノックダウンの有効性、および既存の放射線治療や化学療法に対する抵抗性Brachuryノックダウンの有効性については現在検討中である。さらに既存の腫瘍に対する遺伝子導入方法が課題となる。in vitroにおいてもBrachuryノックダウンの効率が十分ではなかった為、Brachyuryにより二次的に変化をおこし、直接癌幹細胞を制御する因子として現在miRNAに着目しスクリーニングを行っている。Brachyuryの標的miRNAが同定できれば導入や制御の仕方が容易になることが予想される。
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