研究課題/領域番号 |
23390471
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
森山 啓司 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (20262206)
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研究分担者 |
小川 卓也 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (50401360)
東堀 紀尚 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (50585221)
大隈 瑞恵 東京医科歯科大学, 歯学部, 非常勤講師 (60456209)
秋吉 一成 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90201285)
小林 起穂 東京医科歯科大学, 硬組織疾患ゲノムセンター, 助教 (20596233)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アペール症候群 / 頭蓋冠縫合部早期癒合症 / FGFR2 / 可溶型受容体 |
研究概要 |
アペール症候群(AS)は、頭蓋冠冠状縫合部の早期癒合と中顔面部の劣成長を伴う不正咬合、四肢の合指症を主徴とする疾患である。FGFR2におけるアミノ酸置換(S252WまたはP253R)が報告されており、FGF/FGFRシグナル異常に起因した機能獲得型変異が原因であるといわれているが、詳細な病態成立機序は不明である。本研究は、アペール症候群の病態成立機構の解明と、S252W変異を含む可溶型受容体(sFGFR2)の精製タンパク質(sFGFR2Ap)が、頭蓋冠縫合部早期癒合症に及ぼす効果を検討することを目的とした。アペール症候群モデルマウス頭蓋冠におけるFgfr2IIIbアイソフォームの異所性発現、Fgf10タンパク質の分泌亢進が観察されたことから、これらの現象がApert症候群における頭蓋冠縫合部早期癒合症発症に関与する可能性を見いだした。COS-7細胞にsFGFR2Apを強制発現させ培養上清より精製を行った。担体として疎水化多糖ナノサイズゲル微粒子(ナノゲル)を用い、sFGFR2Apとの複合体を作製した。胎生15.5日齢ASモデルマウス(n=4)より頭蓋冠を摘出し、冠状縫合部の片側にはナノゲル(対照群)、反対側にはsFGFR2Ap-ナノゲル複合体(実験群)を適用し、4日間の組織培養後、HE染色法により縫合部の組織学的解析を行った。冠状縫合部のHE染色組織像から、対照群では縫合部の癒合が観察され(n=4/4)、実験群では縫合部の開存が認められた(n=4/4)。以上のことから、精製sFGFR2Apの縫合部早期癒合に対する予防効果が示され、AS病態解明および新規治療法開発の一助となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Apert症候群マウスの個体数確保に多数のブリーディング期間を要したため、一昨年度までの達成度はやや遅れたものとなった。しかし、H24年度は、研究代表者、研究分担者および研究協力者との綿密な連絡体制を再構築し、アウトプットを共有することで研究の質および速度が向上したことが本研究の達成度向上に寄与したものと思われる。また、学内、国内および国外で開催された学術会議において研究成果の発表を積極的に行うことで、多分野にわたる研究者との交流が深まり、多面的なアドバイスを受けることも研究の遂行に大きく寄与したと考えられる。 当初、目的タンパク質の大量精製については大腸菌を用いた系で行う予定であったが、タンパク質修飾の関係上、細胞培養系で行う必要性が明らかとなり、研究期間中に実験系の路線変更を余儀なくされたことも研究推進に大きな影響を与えた。しかし、COS細胞を用いた目的タンパク質向上発現株の樹立とタンパク質タグを利用した効率的な精製条件を確立できたことは、研究進行に大きく寄与した。 現在のところ、変異マウス頭蓋冠組織培養のn数は4にとどまっており、今後さらにn数を増やし、縫合部開存に対する目的タンパク質の作用についてin situ hybridization法を用いた遺伝子発現に関する解析を行う必要がある。また、よりin vivoの実験系を確立するため、妊娠中マウスの羊水を通して目的タンパク質を胎児に作用させ、頭蓋冠縫合部発生に対する影響について検討する必要性がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた結果をさらに発展させ、臨床現場に還元させるためには、動物実験でのin vivoにおける安全性の確認と、有効な条件の検索が不可欠である。胎生期の形態異常を伴う先天異常疾患に対する治療は、倫理的な側面から解決されるべき問題も多く、実際の臨床応用の実現には手技的な観点からのみならず、今後さらなる多角的な議論が要求される。 一方、縫合部早期癒合症患者に対する外科的手術、特に頭蓋冠骨切除を伴う術中において、予定外の早期に骨が再癒合する現象が多々報告されている。これは、患者および術者にとって大きな障壁となる場合があり、治療予後、期間に大きな影響を与え、時に再手術を余儀なくされる場合がある。本研究で研究代表者らが精製したタンパク質は、早期骨癒合の病態成立機構に則った作用機序が期待されるため、胎生期のみならず、出生後の外科的手術の補助的役割を担う可能性も考えられる。これについては、変異マウス(生後10週)の頭蓋冠に人為的に骨欠損を作り、その骨治癒過程に対する当該タンパク質の作用を経時的に観察することでその有効性が確認できると考え、今後の推進方策の一つとして計画中である。
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