研究課題/領域番号 |
23390476
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
山崎 和久 新潟大学, 医歯学系, 教授 (00182478)
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研究分担者 |
多部田 康一 新潟大学, 超域研究機構, 准教授 (20401763)
中島 貴子 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (40303143)
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キーワード | Porphyromonas gingivalis / 高感度CRP / HDLコレステロール / LDLコレステロール / LXR / ABCA1 / Ido1 |
研究概要 |
本年度は日本人歯周炎患者における血清脂質プロフィールと感染・炎症マーカーとの関連を解析した。その結果、歯周炎患者において歯周炎を有しないコントロールと比較してHDLコレステロールは有意に低く、LDLコレステロールは高い傾向が認められた。炎症マーカーであるCRPは患者群で有意に高かった一方、TNF-αは患者群で有意に低かった。また、歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis FDC381株、同W83株に対する抗体価は患者群で有意に上昇していた。以上より歯周病原細菌の感染により発症する歯周炎は全身の炎症を誘発するのみならず脂質プロフィールにも影響を与えることで動脈硬化症のリスクを高めることが示唆された。脂質代謝に及ぼす影響を分子レベルで検索するため、マウス実験的歯周炎モデルを構築した。C57BL/6J及び遺伝的背景の同じApoE変異型であるC57BL/6.KOR-ApoE^<shl>にP.gingivalis W83株を週に2回口腔感染し、4週間あるいは32週間後に顎骨の吸収、血中の炎症マーカーおよび脂質プロフィール、血管および肝臓における遺伝子発現プロフィールを解析した。その結果、マウスにおいてもP.gingivalisの口腔感染でヒトの歯周炎と同様の歯槽骨吸収を引き起こすことを確認し、血中炎症マーカーもヒト歯周炎患者と同様の上昇を示した。短期感染では脂質プロフィールはいずれのマウスにおいても変動はなかったが、長期感染では両系統のマウスでHDLコレステロールの低下を示し、加えてApoEマウスではLDL,VLDL,総コレステロールの上昇を示した。血管、肝臓の遺伝子発現プロフィールから血管においてproatherogenicに作用するEgr-1,MCP-1遺伝子の発現が上昇し、血管、肝臓においてコレステロール排出を制御するLXRs,ABCA1遺伝子の発現低下が顕著であった。さらに、肝臓においてはLDL受容体の発現を負に制御するIdo1遺伝子の発現も低下していた。以上より、歯周病原細菌感染はコレステロールの排出抑制、LDL受容体の発現上昇による細胞内への取り込みの亢進により動脈硬化を促進することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度に予定していた歯周炎患者の解析、マウス歯周炎モデルを用いた短期感染実験は予定通り実施し、感染による炎症と脂質代謝に及ぼす影響を解析した。結果は概要に記載した通りである。さらに平成24年度に予定していた長期感染実験も行い、口腔感染により炎症反応の亢進に加えてHDLコレステロールの低下を来すことが明らかになった。マイクロアレイ解析結果からいくつかのターゲット遺伝子の候補を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の予定通りin vitroにおいてP.gingivalis LPSを抗原として腹腔マクロファージによるコレステロールの取り込み、排出に及ぼす影響、その際の上記ターゲット遺伝子の動態を明らかにする。また、これまでの解析から、細菌自体の影響ではなく、細菌に対する免疫応答が重要であることが明らかになったことから、免疫応答遺伝子を欠損あるいは遺伝子に変異を有するマウスにおける感染実験やそれらのマウス由来の細胞における炎症、脂質代謝は解析していく予定である。
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