研究課題/領域番号 |
23401001
|
応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
内田 悦生 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40185020)
|
研究分担者 |
下田 一太 早稲田大学, 理工学術院, 講師 (40386719)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | アンコール遺跡 / 東南アジア / 石造文化財 / 文化財科学 / 岩石 |
研究概要 |
2012年度では、クメール遺跡を対象に下記の項目の調査・研究を行なった。 ・アンコール遺跡の砂岩材の石切り場とその運搬経路に関する研究 - アンコール遺跡の砂岩を供給した石切り場がアンコール遺跡の北東約40kmのところに存在する呉さんにあることは知られていることであるが、その詳細な分布は不明であったので、2011年度に引き続き調査を行ない、合計70程度の石切り場を今までに見出した。また、帯磁率と石材の厚さから石切り場が使用された時代の推定を行なった。このことに加え、石切り場からアンコール遺跡に続く運河網を見出した。これらの内容に関しては、すでにJ. of Archaeological Scienceにて発表した。 ・ラテライトの化学組成に基づくコーケルの建造順序の推定 - アンコール遺跡の北東およそ90kmのところに10世紀前半に建造されたコーケル遺跡が存在する。コーケルでは、アンコール遺跡と同様に砂岩とラテライトが建造に用いられている。砂岩は、周辺河川の川床等から切り出されたことが明らかになっているが、遺跡による違いは認められない。他方、ラテライトに関してはそのSr含有量に基づき、2つに分けられることが明らかになった。これに帯磁率の違いを加えることにより、ラテライトに関しては5つの時期に分けられることが明らかになった。 ・マンガン酸化バクテリアによる石材表面の黒色化について - ラテライト、砂岩およびレンガの表面が黒くなる現象が良く認められるが、その多くはラン藻類の着生によるものである。もう一つの大きな原因は、マンガン酸化物の沈着によるものであり、これはSEM観察によりマンガン酸化バクテリアの活動によるのもであることが明らかになった。また、マンガンの沈着に伴いニッケル、銅などの金属が濃集することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンコール遺跡の石切り場と石材運搬経路に関する研究は、順調に進み、すでに論文としてJournal of Archaeological Scienceに出版された。この論文は、ScienceやNew Scientistにも紹介され、多くの科学関連のメディアで取り扱われた。 コーケルのラテライトに関してもほぼ研究は終了に近い状態であり、若干のラテライトの分析を待つばかりであり、論文も作成中である。 マンガン酸化バクテリアに関しては、分布やその化学組成を明らかにしたばかりであり、今後は物質同定および遺伝子解析を行なう予定である。 コンポンスヴァイのプレア・カーンのスラグに関してはほぼ化学組成分析を終え、2つの異なった起源があることが判明した。今後、周辺部における鉄鉱山の調査を行ない、コンポンスヴァイのプレア・カーンでの鉄の供給源に関して明らかにする予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
マンガン酸化バクテリアのよる石材表面の黒色化に関しては、黒色物質の構成物の同定およびバクテリアに起因するDNAの分析を行ない、バクテリアの活動によるものであることを明らかにする。また、原位置での携帯型蛍光X線分析装置による化学組成分析を行ない、マンガン以外の濃集元素を定量的に明らかにする。 コンポンスヴァイのプレア・カーンでの製鉄に関連して、周辺の鉄鉱山の調査を行ない、鉄鉱石の供給源を明らかにすることを目指す。 上述したこと以外に、2013年度では、タイとカンボジアの国境地帯に存在するプレア・ヴィヘアにおいて使用石材の調査を実施し、石材から建造過程を明らかにすることを目指す。
|