研究課題/領域番号 |
23401008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中西 徹 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30227839)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フィリピン / コミュニティ / 貧困 / 社会ネットワーク / 貧困削減政策 |
研究実績の概要 |
平成25年度の海外調査では,主としてマニラ首都圏(マラボン町)の不法占拠地域の居住者と中部ルソン地方(ヌエバ・エシーハ州ギンバ町)の米作農村の農民を対象として,人々が社会ネットワークを活用し,どのようにして貧困をめぐる諸問題に対応しているのかについて,一次定量的データを収集すると同時に,インタビュー調査を取り入れることによって,質的資料による検討も加えた。この結果,これまで流動性が高いと考えられてきた都市貧困層にあっても,農村同様に,高い定住傾向が観察され,それは地域内の血縁関係と儀礼親族関係(カトリック固有の疑似親族関係)といった社会ネットワークによって支えられていることがあきらかになった。この関係は所得向上を目的とした「社会関係資本」というよりも,その関係自体が人々にとっての「福祉」の源泉であり,守るべき「価値」になっているように思われる。 これらの調査から,我々は,凝集性の高い社会集団を形成する貧困層は,「地方政府」や「中央政府」との微妙な距離をとった関係を維持しつつ,統率力を有するリーダーの有無にかかわらず,多様な人財を活用した「弱者の戦略」というべき,巧妙な対応戦略を有し得るという予測を得た。それは,貧困層が,これまでの画一的なコミュニティ開発のモデルとは異なる組織と制度の形成能力を既に有し得ることを示唆しており,農村部において「有機農業」にとりわけ顕著である。つまり,貧困層は,画一的な貧困緩和政策がしばしば新たな「統治」をもたらし得ることを認識し,小集団内の多様性な人財の活用によって,それに対抗してきたように思われるのである。この予測についての厳密な例証は,次年度の研究において実現したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年(平成24年)の台風とその後の混乱から調査日程にずれが生じたため,ヌエバ・エシーハ州については,その後,データに不備が発見された。このため,補足調査に時間をとられた。その一方で,質的調査の蓄積は進んだ。とくに,マラボン町の調査地では,村会議員への集中的なインタビューによって,インフォーマルな地区がどのようにフォーマルな組織にアプローチをすればよいかについて,多くの知見を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は最終年度であり,量的データと質的データのまとめと,そのための補足調査の継続が主な目標となる。これまでの調査から,農村地域については,コミュニティの深化をとおして有機農業が農民たちの戦略として大きな意味を有すること,都市貧困層については,村落(バランガイ)レベルでの射界ネットワークを活用した人々の関与が貧困緩和に大きな意味をもつことが予測される。これらを仮説として,論文公表やセミナーを通して議論の精緻化を図りたい。
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