研究課題
これまでの調査では,凝集性の高い社会集団を形成する貧困層は,地方政府や中央政府との微妙な距離をとった関係を維持しつつ,統率力を有するリーダーの有無にかかわらず,多様な人財を活用した「弱者の戦略」というべき,巧妙な対応戦略を有し得るという予測を得た。それは,貧困層が,これまでの画一的なコミュニティ開発のモデルとは異なる組織と制度の形成能力を既に有し得ることを示唆しており,農村部における「有機農業」にも顕著である。つまり,貧困層は,画一的な貧困緩和政策がしばしば新たな「統治」をもたらし得ることを認識し,小集団内の多様性な人財の活用によって,それに対抗してきたように思われるのである。本年度の研究においては,主として,ラグナ州のMASIPAG(農業の前進のための農民と科学者)というNGOへの聞き取りと,その活動地域の一つであるヌエバ・エシーハ州における有機農家への聞き取りを通じて,地方政府・中央政府と,有機農業を志向するNGO・農民との関係に着目し,仮説の例証を行った。この結果,①NGOの努力もあり,有機農業の生産性は従来の慣行農業のそれに匹敵するまで上昇したこと,②消費者との顔の見える関係と生産者・消費者の協力による有機認証制度を通じて,アグリビジネス主導の慣行農業が浸透している現在の農業システムに対抗するだけの力をつけてきたこと,そして,③その背景には村落における緊密な社会ネットワークが存在することをあきらかにした。さらに,このような「弱者の戦略」は,都市スラムや少数民族において妥当することも検証した。都市スラムについては,地域内の緊密なネットワークの連鎖が,複数の代表者の存在を容認し,巧みな分業と多様化によって地域の安定と対外的地位の向上を確保してきたことを例証した。これらの事実発見は,従来の画一的な貧困緩和政策の変更を迫る意義を有すると考えられる。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Book of Proceedings: Redefining Approaches in Agribusiness Management and Entrepreneurship for ASEAN 2015
巻: 1 ページ: 90-108