本研究は,フィリピンにおいて,有機農業が,貧困層の福祉の要である「社会ネットワーク」の深化を促進し,貧困削減を実現するための戦略として有用であることを示した。有機農業は,環境面や食の安全面のみならず,政治面(政治的自由の実現),経済面(長期的な生産性の高さ),社会面(有機農業と社会ネットワークの深化との相互作用)の特性からも,貧困層の「福祉」水準の向上に貢献してきたのである。それは,低地米作農村のみならず,ミンダナオ島やネグロス島の少数民族が有機農業を意図的に営んできたことにも現れている。また,そこにおける市場や国家との間の適切な距離を維持する対応は,海洋少数民族にも観察される戦略原理である。
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