研究課題/領域番号 |
23401016
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 聖泉大学 |
研究代表者 |
磯邉 厚子 聖泉大学, 看護学部, 准教授 (40442256)
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研究分担者 |
植村 小夜子 滋賀県立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10342148)
伊藤 良子 京都市立看護短期大学, その他部局等, 准教授 (20300238)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スリランカ / 農園 / 母子保健 / 栄養不良 / 潜在能力アプローチ |
研究概要 |
2012年8月~2013年3月、農園の母子の栄養不良の原因を追求するため、下記の調査を行った。農園部ヌワラエリヤ県のDICKOYA基幹病院で23名の新生児、予防接種に来院した6歳以下の子ども57名及び母親の健康調査を実施した。新生児23名中、16名(70%)が強いやせ、7名(30%)が標準以下の体重であった(カウプ指数)。また、7名(30%)が帝王切開分娩で、母親の低身長と胎児の子宮内発育不全の理由が考えられた。医療関係者より栄養指導は受けていたが実行されていない可能性が高かった。57名の子どもは重症の栄養不良はいなかった。低出生体重児の家庭訪問5件を実施したところ、穀類中心の質素な献立で台所も粗末であった。個人で畑をもつことが困難な農園では栄養を得にくい状況がみられた。また、母子の健康記録を一体化した母子手帳がないことも課題とみられた。過酷な労働条件も栄養不良の原因になり易いため、2013年2月、農園労働者の女性25名(工場及び屋外労働者)にライフコーダを装着し、一日の消費カロリーなどを測定した。歩数は平均20,000歩であり、屋外労働者は出勤時と終了時(山への昇降時)に強いエネルギーが記録された。さらに農園住宅の人々の居住環境の調査20件では、家族員の都市や海外への出稼ぎ、アルコール依存や虐待等、社会的問題もみられた。経済条件や家族構造の変化も女性や子どもの栄養不良に繋がると考えられた。家電製品がないため女性の家事負担が大きいことも、栄養必要量低下に繋がる可能性が高い。家屋等の水質検査9件では、全ての蛇口から多量の大腸菌による汚染がみられた。下水処理がされておらず、寄生虫症や消化器系疾患に罹りやすい状況であった。本年、母子健診から生活に至る調査まで行い、母子の栄養不良に繋がると考えられる農園の生活の実態がより明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳幼児健診及び母親の健康管理状況や低体重児の家庭訪問を行い、生活実態(家族構成、雇用、収入、インフラ設備など)を観察、調査できた。妊婦健診を受けても、栄養充足への実効性が少ないことが考えられた。また、妊婦自身の低体重、低身長も相俟って、帝王切開分娩など周産期のリスクに晒されていることがわかった(低栄養の悪循環)。また、農園労働者の女性の労働エネルギーの測定も行うことができた。茶摘みの女性は山の昇降時に、工場労働の女性は長時間労働など、女性が常に肉体労働に晒されていることがわかった。住宅の生活用水の検査結果では、身体を脆弱にしやすい生活環境であった。厳しい労働や生活条件により、栄養不良になりやすい状況がみられた。さらに、大家族により、栄養の分配の課題も確認された。また、一定収入があっても不適切な家計コントロールにより、家族員の適切な栄養摂取に繋がらない可能性も考えられた。2重3重の生活条件の劣悪さが、母子の栄養不良に直接的、間接的に関わっていることが改めて確認された。保健システムや母子手帳の課題、助産師不足など、行政の健康サポートも不十分であることも含めて、母子が望ましい健康を達成するための潜在能力(行いや状態を望ましい状態に変化させる能力)が乏しかった。栄養不良の原因追究や実質的阻害要因、さらに栄養を改善するための複合的な広範囲なひとの機能について評価すべき情報を整理しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
母子の健康調査や生活調査と、当国の母子保健システムや農園の経済的・社会的条件を関連させて母子の栄養問題の要因を検討する。保健システムでは妊婦を受け入れる地域中核病院の実態や助産師不足など行政の視点から優先されるべき課題を追求する。また、海外への出稼ぎが一般的になりつつ、家族機能の破たんなど社会的問題も含めて多面的に母子の課題を追求する。すなわち母子の福祉(well-being)を阻害する要因を明らかにすることで、優先されるべきひとの機能(行いやありよう)を評価し、母子の生命、生存を生活の機能として、潜在能力を向上させるに役立つ機能的な観点から追及する。調査結果の検討を行いながら、母子の望ましい健康状態を実現するためには、どのようなひとの機能の組み合わせが必要か、潜在能力理論に基づいて理論づけを行う。現地協力者からの情報収集は継続し、実情把握に努めていく。残された調査として、5歳未満児の子ども(託児所に預けられた子どもを中心に)に焦点をおき、託児所の実態と子どもの生活背景を把握することが必要である。
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