前年度に行った新国立劇場での測定で、音源の上下方向変化に対応する指標が得られにくいことが判明したことから、前後・左右・上下の6方向からの正規直交6方向からの音響の相関を解析する「6軸相関計」を自作し、新国立劇場で試験的に測定、精度と効果を確認のうえ、欧州での測定にあたった。 欧州ではカトリック・ラウプハイム教会、バイロイト祝祭劇場、カトリック・ルクセンブルク大聖堂、中世様式のカルフ・マリア教会の4建築物について、通常のバイノーラル測定と6軸相関評価を行った。 もっとも顕著な新知見として、音源が上昇することで「前後相関」の値が上昇する事が知られた。通常の左右相関に大差がない中、前後の相関が上昇することは、音源位置の上昇が結果的に没入感の上昇、言語明瞭度の減少など、既存の指標レベルでも再評価可能ないくつもの認知効果を併せ持つことを示唆しており、この方向で新たな研究の一領域を切り開くものとなった。 また 国内での予備測定に関連して東大寺二月堂修二会(「お水取り」)の動的測定を東大寺との共同プロジェクトとして継続することとなり、過去60余年に渡る東大寺保存の歴史的音源のデジタルアーカイヴとその比較分析を、本プロジェクトの自然な外延として進めることとなった。
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