研究概要 |
ケニア手話(Kenyan Sign Language:KSL)とフィリピン手話(Filipino Sign Language:FSL)は,これまで,アメリカ手話(ASL)の亜種であるかのように扱われてきた。しかしながら,フィリピン手話に関する諸研究からの知見とケニア手話に関する我々の調査によれば,ケニア手話もフィリピン手話もASLの強い影響は見られるものの、ASLとは別の言語であることがわかっている。そこで,ASLとの接触によっても保持される当該言語のNativityと,影響を受けている要素とを丹念に記述する必要がある。 本研究の目的は,フィリピンおよびケニアのろう者コミュニティにおける言語接触現象に注目し,手話言語同士の接触で何が起こっているかを記述することである。さらに,それが従来の社会言語学研究のフレームワークにどのように寄与できるかを探求することである。 平成23年度から25年度においては,各フィールドの手話の統語・音韻(手話の音韻的パラメータすべてにおいて)・語彙及び語用論の諸側面の綿密な記述をおこなう。 ケニアでは、本年度ではまず,現地のデータ収集をおこなうフィールドワークのアシスタントの養成が必要であった。代表者と分担者が現地におもむき,参加者(手話話者と手話と音声言語とのバイリンガル話者)に対して調査方法のワークショップを実施した。そしてそれらのアシスタントにインフォーマントとしても参加してもらい,KSLの基本的な統語構造を調べ,日本手話学会で発表した。 フィリピンでは,手話の音韻論及び形態論については,すでに基本的構造は,現地研究者により,ほぼ調査されているので,未だ明らかになっていない統語構造と地域変異に焦点を絞ることとし,すでに構築されているコーパスの利用の仕方についての議論と言語ワークショップの開催に向けて準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ケニアでは,リサーチアシスタントの養成を実施し,基本的統語構造の記述まで行うことができた。一方、フィリピンでは,すでに過去に作成したフィリピン手話のコーパスの利用についてこれを作成した時のカウンターパートとその利用の仕方と知的所有権の問題について議論を重ねてきている。この結果,このコーパスの一部を用いて現地の手話話者であるろう団体を新たなカウンターパートとして,2012年度に統語構造分析のためのワークショップの開催で合意し,現在,準備が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ケニア・フィリピンの両調査地において,変種の存在がどれほどあるのか,ASLの影響がどれほどあるのかを米国等在住のASL話者の協力も得,過去のASLの言語学的研究の蓄積とも比較しながら,調査を進めていく予定である。
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