本研究は、インドネシア共和国西部のバンカ島とその周辺島嶼部を中心とする海域に分布する漂海民セカ族を主たる対象として実施された海洋人類学調査である。セカ族については本格的な調査が人類学者の手によって実施されたことはなく、本調査によりこれまで知られてこなかったセカ族の文化徴表が世界で初めて、民族誌上に登場することになった。本調査が開始された段階で、セカ族の全人口は約900人である。セカ族全体は、それぞれが儀礼集団となっている5部族に分かれ、各部族は10隻強の家船から成る数バンドにより構成されている。関係名称体系は典型的な無系型で、婚姻は厳格な単婚である一方、祭りや儀式の際には歌垣と乱婚が行われる。
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