研究課題/領域番号 |
23401044
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
出口 顕 島根大学, 法文学部, 教授 (20172116)
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研究分担者 |
片岡 佳美 島根大学, 法文学部, 准教授 (80335546)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 社会学 / 国際養子縁組 / 生殖補助医療 / アイデンティティ / 血縁 / ステップファミリー |
研究概要 |
出口は,スウェーデンの国際養子縁組家族のインタビュー調査を継続した。前年までに調査した家族の追跡調査だけでなくあらたな家族にもインタビューした。同じ時に同じ国から養子をもらった親たちが緊密なネットワークを形成していること,養親たちの多くが都市の中心部の裕福なエリアに居住していることが確認できた。さらに連携研究者の石原とともにインド人代理母に双子を産んでもらったシングルのスウェーデン人男性にインタビュー,代理出産契約の内容、親権獲得の手続きについて調査した。また単独でノルウェーのオスロ大学やスウェーデン・ルンド大学の研究者らと研究の推進について意見交換した。 片岡はフィンランドにおいて,アジアから子どもを養子に迎えたフィンランド人の養親にインタビュー調査を実施した。調査では,子どもと血縁関係がないだけでなく外見も全然異なる養親がどのように「自分たちは家族である」という認識を形成しているのかを、養子縁組後15年経つケースと5年経つケースを比較して把握することに努めた。共通の文化や習慣,生活史の共有による行動の類似性や円滑な相互作用が確認されたとき,「自分たちは家族である」という認識を安定化させることが分かった。 連携研究者の石原は出口と合流する前にスウェーデンのストックホルムで,スウェーデンにおけるDIによる出生児による精子提供者の情報を求めた新たな例がないこと,またART管理システム事業が,保健省直轄のデータ収集方式から第三セクターへ移行したことをインタビュー調査で確認した。またヨテボリ大学で実施された子宮移植手術プロジェクトと未受精卵子凍結プログラムについてを調査した。前者については既に二例の手術が行われ,経過が良好であること,また法律で禁止されている代理懐胎の代替策になる可能性があることなどがわかった。後者はすでに100例行われたことが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インタビュー調査をもとに複数の国の国際養子縁組家族のあり方を比較するという今年度の目的は順調に進んでいる。フィンランドの調査で彼らがどのような契機で自分たちを「家族」と感じられるようになるかというメカニズムも解明できつつある。またスウェーデンの調査から国際養子縁組家族の場合,私的領域・公的領域の区別が曖昧になると言うだけでなく,公的領域が私的領域内部に嵌入している特徴があることも明らかにできつつある。 さらに,生殖補助医療が家族形成にあたえる影響についての手がかりになり得る国外での代理出産や子宮移植手術プロジェクトのデータも入手できた。 以上のことから研究はおおむね順調に進行していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
国際養子家族への調査はインタビューによる質的調査であるが,今後もより多くの家族に調査する方向を推進していく。25年度は、片岡がアメリカでの調査を予定しており,北欧とアメリカの比較が可能になるようデータ収集に心がける。 外国の代理母によって子どもをもつ親が北欧では増えつつあるが,彼らが親権を認められる手続きについては不透明な部分が多いので,今後の調査で解明するとともに,政府や関連機関がどのように対応しているのかも明らかにしていきたい。また子宮移植手術がどのように進展していくかも継続調査したい。 国際養子拠出国への調査は2013年度に韓国で実施したが,短期間の不十分なものであったので、送り出す側の事情や家族観を明らかにしていくのも今後の実施していく。 日本は国際養子縁組が少なく先進国の中でも唯一ハーグ条約を批准していないが,指導相談所などの関係者や海外の研究者と連携しながら考察する必要もある。
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