研究課題/領域番号 |
23401049
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究分野 |
文化人類学・民俗学
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
西原 明史 安田女子大学, 家政学部・生活デザイン学科, 准教授 (60274411)
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研究分担者 |
金 俊華 近畿大学九州短期大学, 教授 (30284459)
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キーワード | ウイグル族 / 漢民族 / 中国 / 民族問題 / イスラーム / 参与観察 / 多文化共生 / 教育 |
研究概要 |
23年度は、申請テーマである「ウイグル族の民族意識とイスラーム信仰の関係」を明らかにするための現地調査を円滑に実施するべく、その基盤形成に重点を置いた。具体的には、8月下旬から9月初旬にかけて、主たる調査地である新彊ウイグル自治区哈密市に2週間ほど滞在し、非物質文化遺産研究センター所長のサマット・アスラ氏、『哈密文学』編集長のウチコン氏、「哈密新聞社」記者のアプリズ氏、教育委員会の馬軍氏ら現地を代表する文化人、知識人と何度も会合を持ち、調査の内容や研究の目的について理解と協力を得ることができた。その結果、調査地域・取材対象の策定について全面的に便宜を図ってもらえることになった。また、すでにこの8月段階で具体的な調査も開始しており、哈密市内及び郊外にてモスクのイマームやイマーム志望者らにインタビューを実施している。またちょうどローズ節(断食明けの祭り)の時期でもあり、その儀式を参与観察し、ウイグル族の生活におけるイスラームの位置づけの一端を理解できる資料が得られた。また、宗教、文化、社会、教育に関する重要な文献や資料は基本的にウイグル語で記載されている。そのため上記協力者らの尽力で現地の翻訳専門家による翻訳作業グループを組織することができた。彼らを通してウイグル語から漢語に翻訳してもらうことになり、すでにいくつかの論文・内部資料などが翻訳され始めている。間に合えば今年度の研究報告書(近刊)にもその日本語訳の一部を掲載する予定である。 さらに3月下旬にも新彊を訪れ、関係者と面談した。ウルムチにて新腰師範大学のウイグル語教育研究者、グリジャナティ氏に研究協力を依頼し、次年度にカシュガルにて調査を実施する際のコーディネートを約束してもらった。また都市部でのウイグル族と漢族の民族関係についての現状を詳しく取材している。以上のように今年度は研究の基礎を構築することに成功したので、次年度はそれを発展させていくことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新彊の民族問題に関する政治情勢は相変わらず緊迫しており、それが調査活動の大きな支障となるのではと懸念していたが、哈密とウルムチにて、大学や研究機関の研究者はもちろん行政関係者にも現地取材についての理解を得ることができた。従って、イスラームという中国政府にとって政治的に大変敏感な問題をテーマにしているにもかかわらず、申請者が希望する取材対象や地域をある程度自由に取材させてもらえる目途がついたうえ、ウイグル語で書かれた内部資料なども漢語へ翻訳していくシステムを構築することができた。このため、当初の期待以上の成果を得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記11において述べたように大変順調に進んでおり、問題点は見当たらない。従って、申請段階での目的、方法どおりに実施していくつもりである。ただウイグル族の暴動などが新彊各地域において散発的に継続していることは確かである。5月には「世界ウイグル会議」が日本で開催され、中国政府はウイグル族の独立運動と日本人の関係に更に目を光らせていることも予想される。また当局の対応もそのような政治情勢によって変更されていくため、申請者としては調査地や日程の変更などについて臨機応変に対応するつもりでいる。ただ、主たる調査地である哈密地区は新彊の中で独特な民族関係の様相を呈しており、新彊の他地区における情勢に大きく影響されることは恐らく少ない。従って、この地区の民族関係をモデルに中国独自の民主的な民族共生体像を構築する、という当初の主題が揺らぐことはないと思われる。
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