研究課題/領域番号 |
23402022
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
穴沢 眞 小樽商科大学, 商学部, 教授 (40192984)
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研究分担者 |
目代 武史 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40346474)
清水 一史 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (80271625)
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研究期間 (年度) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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キーワード | FTA / 技術協力 / トヨタ生産方式 / マレーシア / 自動車 |
研究概要 |
本年度も引き続きトヨタ生産方式の移転を実際に行うマレーシア自動車研究所、プロトン社、プロドゥア社で地場部品メーカーへのトヨタ生産方式の移転を担当する部署においてプログラムの実態について詳細なヒアリングを行った。マレーシア自動車研究所ではマレーシアの自動車産業全般にわたる政策の見直しも行っており、2014年1月に発表された国家自動車政策の改訂版について、情報収集と全体像の把握、さらにはその中でのトヨタ生産方式の位置付けについても検討を加えた。新たな国家自動車政策のもとでは6つの項目について工程表が提示されているが、トヨタ生産方式はその中のサプライチェーンの発展に関連し、地場サプライヤーの競争力強化の中に含まれている。 さらに、マレーシア自動車研究所によるトヨタ生産方式のモデル企業から同業他社へのトヨタ生産方式の移転はスムーズに実施されておらず、参加企業の増大は進んでいなかった。これは競合する企業への経営資源の移転の限界でもある。 国民車メーカーでもあるプロトン社やプロドゥア社ではそれぞれ独自のサプライヤー育成のための施策を持っており、必ずしもトヨタ生産方式のみに固執することなく、より広範な地場企業育成を行っていた。しかし、国の政策としてトヨタ生産方式の導入が進められているため、各社とも担当者が地場企業へのトヨタ生産方式の移転を進めていた。ただし、貿易の自由化に伴い、国内市場での競争が激しさを増す中、地場サプライヤーの選別は一層厳しさを増しており、育成のコストに対する考え方も厳しさ増していた。 また、プロトン社が地場のDRBハイコム社の傘下に入ったため、同じ傘下にあるホンダとの協力関係構築の可能性が浮上したため、ホンダにおいても今後の協力や現時点でのホンダの工場内での生産方式について現地調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本とマレーシアのEPAの締結に伴って開始されたマレーシアの自動車部品メーカーに対するトヨタ生産方式の移転は2011年からマレーシア側が主体となる形態へと移行し、日本人専門家の数も年ごとに減少し、マレーシア自動車研究所と地場の国民車メーカーであるプロトン社とプロドゥア社がその役割を引き継いできた。日本人専門家からマレーシア自動車研究所や国民車メーカー2社の担当者への業務の移行プロセスについては既にその全容が明らかとなったが、特にマレーシア自動車研究所ではマレーシア側の人員不足や担当者の転職などの問題点も明らかになった。同研究所はモデル企業と呼ばれる既にトヨタ生産方式を修得した企業と協力しながら、参加企業の拡大をはかっているが、同業他社への移転が容易に進まないこともヒアリングから明らかとなった。 国民車メーカー2社はこれまでも様々な地場サプライヤー育成のためのプログラムを実施してきており、その中にはトヨタ生産方式と共通するものも含まれる。そのため、政府の政策として実施されるトヨタ生産方式の移転と他のプログラムの間の整合性がとりにくい場合や調整の必要もある。さらに、地場のサプライヤーの技術や品質管理等のレベルが企業ごとに大きく異なるため、トヨタ生産方式の移転以前に様々な育成のためのプログラムを実施する必要があることも指摘された。 トヨタ生産方式の地場部品メーカーへの移転とその広がりを詳細な現地調査により明らかにすることが本研究の主要な目的であり、これについては昨年度同様、確実に知見を積み重ねている。 一方でFTAの拡大に伴うアセアン域内及び域外との競争の激化がマレーシアの自動車産業に徐々に影響を与え始めており、これらについても環境要因として調査を継続している。これに関連して、本年1月に改定されたマレーシアの国家自動車政策についても情報の収集と分析に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで日本側の研究者と現地の研究協力者が協力し、地道な現地でのヒアリングによりトヨタ生産方式のマレーシア自動車産業への移転の実態を明らかにしてきた。引き続き、両国間の研究者の連携を活かし、マレーシアの実施機関、企業でのトヨタ生産方式の移転の実態について詳細なヒアリング調査を継続する。また、実施主体であるマレーシア自動車研究所と国民車メーカー2社との間でトヨタ生産方式の移転の対象範囲や実施方法に違いが生じ始めている。この点は本年度のヒアリングから明らかになったもので、今後、この点にも注意してヒアリングを進める。 さらに貿易の自由化に伴い、輸入車や外国メーカーによるノックダウン生産も増加している。国内市場での競争が激化する中、国民車メーカーによる地場部品メーカーの選別が厳しくなりつつある。これはセットメーカーのコスト意識や競争優位構築の中でのトヨタ生産方式の位置付けの変化と捉えることもでき、この点も含めたヒアリングに努める。 上記の点と関連して、移転の対象となる地場部品メーカーの数的な拡大に伴い、受け手側の能力が問われる状況が既に一部で生じている。そのため、本年度はこれらの点も視野に入れたより詳細なヒアリングを実施する。特にプロトン社については同じ企業グループに属するホンダとの協力関係が増しつつあるため、この点も踏まえた地場サプライヤー育成とその中でのトヨタ生産方式の移転についても明らかにする予定である。 環境要因であるFTAの拡大や浸透を特にマレーシアの周辺国との対比の中でとらえ、比較劣位にあるマレーシアの自動車産業に対する政策についても引き続き考察するが、改定された国家自動車政策の実施状況についても企業や関連機関でヒアリングを行う。 来年度は本研究の最終年度に当たるため、英語での研究成果の公表など、これまでの研究で得られた知見をマレーシアに還元する予定である。
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