研究課題/領域番号 |
23402035
|
応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 鹿児島県立短期大学 |
研究代表者 |
朝日 吉太郎 鹿児島県立短期大学, 商経学科, 教授 (70270155)
|
研究分担者 |
西原 誠司 鹿児島国際大学短期大学部, 情報文化学科, 教授 (00198491)
野村 俊郎 鹿児島県立短期大学, 商経学科, 教授 (00218364)
竹内 宏 鹿児島大学, 教育学部, 教授 (10197270)
杉本 通百則 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (40454508)
霜田 博史 高知大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (50437703)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 金融市場危機 / ユーロ / 収奪通貨 / ドイツ労使関係 / モデル・ドイツ / 移民統合 / マイノリティ / 労働市場 |
研究概要 |
今年度の研究成果は,以下のとおりである。 (1)統一通貨ユーロが,ドイツ経済の「一人勝ち」のメカニズムとして機能し,国際的収奪通貨の役割を果たしている。EUにおける利潤は「勝ち組」の国家に集約され,「負け組」の国家は経済的困難に陥っているのが,いわゆる欧州金融危機の実態である。しかし,金融面で危機が喧伝される一方で,TERGET2(ヨーロッパ中央銀行を軸とする各国中央銀行のネットワーク)が経済的困難を調整し,危機の発現を繰り延べるシステムとして機能しており,ギリシャ危機が南欧危機に即座に転化することを防いでいる。 (2)グローバル化の下でのドイツ労使関係は,従来のモデル・ドイツの質的転換を求めている。この点に関しては従来の研究は不十分であった。この構造転換に関する本研究の成果(ドイツ労使関係の理論的,実態的把握)に対して,マールブルク大学で政治学・経済学者から全面的な支持が得られた。 (3)金融危機とグローバル化の日独比較に関連して,共同著作の執筆を計画し,出版の準備がととのった(ドイツ語で出版,来年度6月予定)。日本における金融危機の社会構造的分析を中心に,年度内中の日本での別冊の出版に向けた論文集になっており,日独の研究パートナーシップで,より高い理論的交流の前提となるものとなった。 (4)ムスリム移民の統合とマイノリティ労働市場の調査が新たな段階に入った。昨年度の調査では,マイノリティにおける貧困・格差の再生産問題については,ドイツ連邦政府やドイツのムスリム研究者がかなり楽観的であったが,その実態を調査することで,そのような見解の問題点が鮮明になった。調査過程で,社会的統合の研究者,ムスリム女性の保護団体等の対話ができた。公益法人との対話では,強制結婚や体面殺人に直面するムスリム女性やムスリム家庭の教育の問題などについて,多くの知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24度は調査研究の基盤となるヨーロッパ経済の理論的解明が新たな段階に入り,その結果,従来の調査の見直しと,新たな理論的課題に向けた調査計画の検討が進み,この点で,大きな飛躍があったといえる。理論的成果としては, (1)統一通貨ユーロの導入によるEUの域内・域外における利潤の還流メカニズムとドイツの「一人勝ち」のメカニズムが解明された。これまでその実態の指摘はなされても,理論的解明という点では不十分であった。今回,国際的収奪通貨ユーロという我々の分析によって,この領域の研究を新たな水準に高めることができた。さらにユーロによる利潤還流が,ドイツにおける産業の振興や雇用,賃金問題の良好さを生み出すことへ理解が深まり,ドイツの労使関係の切迫感の相対的欠如の背景への理解がすすんだ。その中でも財界戦略と雇用問題(特に不安定就業化),協約自治における労働組合の力量低下などについての統一的理解の課題が鮮明化された。 (2)社会的底辺の雇用問題である移民労働とムスリムの社会的統合問題については,これまで政府の楽観的な主張を,移民の実態調査を通じて検証し,その困難さと課題を知るとともに,イスラム団体に対しても,ヨーロッパ的価値の尊重とコミュニケーション課題などを議論しあうことができた。 (3)EUの行動指針である「社会的市場経済」イデオロギーの理論的基盤(オルド自由主義)に対する理解,その擬制性と問題性についての理解が進み,また,「社会的ヨーロッパ」あるいは「社会国家ドイツ」といったイデオロギーの擬制性も明らかになった。 (4)実態調査としては,当初予定していた,フォルクスワーゲン,ジーメンスシュタット,食品労組など,先方の都合で取材できなくなったところがあり,今年度の課題として残っている。 (5)(1)で解明された経済メカニズムと調査研究分野のトータルな理解をすすめる課題が残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,研究期間の最終年度となる。 (1)研究グループは,年度内での研究成果報告に向けて,今年6月のドイツでの著書出版に加えて,来年4月に日本向けの著作を刊行するための準備を行っている。この執筆準備にあわせて,本年度も9月に2週間余りの現地調査方針を決定する予定である。調査では,ヨーロッパ金融危機に関連して,新たな理論的見地から,特に,ヨーロッパ中央銀行とドイツ連邦銀行への取材を行うことを課題とする。また,昨年,都合により取材できなかった,ジーメンス(ベルリン工場)や,食品加工労組(ハンブルク)などの残された対象,執筆の必要上再度調査対象とする対象については,執筆者の問題意識に沿ってアメーバー状の柔軟な調査組織で対応する。 (2)また,ベルリン工科経済大学,マールブルク大学,キール大学,ハンブルク大学,エアランゲン・ニュルンベルク大学,ミュンスター大学,経済研究所,労働組合,在独イスラム系諸団体,ドイツ連邦移民難民庁,などこれまでに築いてきたネットワークを通じた支援が得られる体制で臨む。 (3)研究成果を著書にして出版する。すでに日本の経済危機と雇用問題については,ベルリン工科経済大学の研究者とともに,本年度ドイツにて出版がなされる予定である。また,今年度末には本研究の集大成としてベルリン工科経済大学の研究者とともに本研究のテーマにそった出版を行う予定である。
|