研究課題/領域番号 |
23402041
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
首藤 明和 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 准教授 (60346294)
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研究分担者 |
森本 一彦 京都大学, 文学研究科, 准教授 (20536578)
福田 恵 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (50454468)
池本 淳一 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 助手 (90586778)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 社会学 / ハイブリッドモダン / 日中比較研究 / 公共圏 / 親密圏 / 移動 / 村落 / 家族 |
研究概要 |
前年度に引き続き、「定住」を前提とした市民社会・コミュニティ・家族に対するこれまでの理解を再考するために、「移動」に関する日本と中国双方の関連資料収集を行った。主な調査地、調査内容、分析は以下のとおりである。(1)中国山西省平遥市郊外村では、大躍進期及び文化大革命期の戸籍簿と世帯ごとに作成された階級成分表の収集を行い、人民公社時代における移動の意味とそれに対する権力や価値規範の作用を分析した。(2)遼寧省撫順市のモスクとプロテスタント教会の調査では、ムスリムや朝鮮族のトランスナショナルネットワークと、それがもたらす共同性を、養老や貧困問題への取り組みから分析した。(3)民国時代の中国武術の資料収集のために、台湾台北で資料収集を実施し、伝統的な社会的ネットワークと市民社会、コミュニティの関連を分析した。(4)三重県松阪市で伊勢神楽、家畜商、林業経営者に集約的なインタビューを実施し、ライフヒストリーの構築を試みるなかで、移動と家族、地域社会の関連を分析した。(5)広島県三次市で親子四代の日記資料などを収集し、江戸末期から昭和にかけての移動と家族について分析した。(6)高野山文化圏の経済・文化交流に関する資料を収集し、その形成と運営の歴史的考察と、現在の過疎化問題を検討した。 以上の調査研究を通して、ハイブリッドモダンの社会学に必要な、「移動」の諸相(空間、階層、歴史・文化の編成)に関する基礎的知見を得た。すなわち、(1)相互支援や相互承認に基づく自治の生成と困難、これに関連した保守層(中間層)の性格、(2)家族・親族の伸縮性と分節性がもたらすダイナミズムと困難、(3)地域社会の凝集性・同質性と開放性・異質性の歴史的動態、(4)土着的伝統との交渉を通じたモダニティのアジア社会における制度化、(5)再生や転生など文化の循環論的展開を含んだ社会変動などに対する知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に実施した現地調査からは、中国と日本のそれぞれの地域差を考慮しながら、多様な歴史的文化的背景を持つ複数の調査地において、本研究の目的遂行に欠かせない一次データを、質量ともに一定のレベルで獲得することができた。また、本研究の中間報告として、国際シンポジウムや全国規模学会での報告を行い、研究組織外部からの評価を得るとともに、新しい学術的知見の社会的還元にも努めた。さらに、本研究の部分的な成果に関してではあるが、インターネットでウェブページを開設し、恒常的な情報発信にも着手している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究体制を引き継ぎ、海外・国内において現地調査を実施する。主な調査地は以下のとおりである。 ①遼寧省撫順市、吉林省長春市、北京市、山東省済南市、寧夏回族自治区、雲南省保山市、浙江省湖南市等では、前年度に引き続き、回族および漢族農民の移動を中心に調査する。教育、養老、就職などの実態把握を通じて、コミュニティの共同性を理解するとともに、親密圏の再構築を通じた今後の日本と中国の市民社会のあり方を探る。②甘粛省武威市、台湾台北市及び台中市では、伝統武術家へのインタビュー調査を進め、伝統的な相互承認と相互支援の社会的ネットワークが市民社会のなかで果たしている役割を明らかにする。③和歌山県高野町では宗教都市と山間集落の構造についてさらに調査を進める。④長野県飯田市、北海道新十津川町、奈良県十津川村では定住者と移動者の関係についてさらに調査する。⑤兵庫県豊岡市、広島県三次市、三重県伊勢市では、神楽などの芸能や博労などの交易にかかわる移動、あるいは林業にかかわる移動に関して調査を進める。また、特に80代高齢者に集約的なインタビューを試み、ライフヒストリーの構築を試みる。以上の調査は、国内外ともに1週間程度の日程で実施する。 最終年度である本年度は、特に以下の作業を進めたい。①若干名の調査補助員を採用し、収集したインタビューデータ、統計データ、史料、文献の整理と分析を進める。②研究成果の社会還元の一環として国際ワークショップを開催し、本研究体制の外部から若干名の研究者を招聘して評価を受ける。③国内の全国規模学会で研究成果を報告する。④収集したデータや分析結果は書籍として公刊することを目指す。その際、日本語だけでなく中国語での発信もおこなう。そのために中国語翻訳の研究補助員を採用する。⑤和歌山市高野町の研究成果などを中心に、インターネットのウェブページでも、研究成果を発信していく。
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