本年度は,研究計画にしたがって,国内調査(小樽・1回)と米国調査(セントルイス・1回)とを実施した。 国内調査では,小樽市の歴史的景観の定点観測を継続して実施した。前年度の調査結果とあわせて分析することにより,なお一層,小樽の町並みのデザイン・コードが変化してきている様が浮き彫りになってきた。「運河論争」の結果,小樽は歴史性と地域性に基づいたデザインを旨としてきたが,町のデザイン・コードが「脱地域化」してきていることをより明確に明らかにすることができたように思われる。端的に言うなら,「ノスタルジックな町並みからモードな町並みへ」という変化であると思われる。 米国における町並み保存運動調査は,アメリカ・ミズーリ州セントルイスの「センチュリー・ビル取り壊し事件」を中心に扱った。本年度は,センチュリービル取り壊しと旧郵便局舎再開発を推進した主体(すなわち市開発局,デヴェロッパー,建築家,建設業者)側へのヒアリング(インタビュー)を中心に実施した。今年度は,デヴェロッパー全員にヒアリングすることができ,彼らのオフィスにて内部文書を閲覧・複写することもできた。これにより,資料収集は量質ともに格段の進展を見た。これらを,第一生命財団の助成金による現地調査で収集されたデータをも加味して分析した結果,(1)セントルイスの保存運動が,アメリカ保存法制史上,特筆すべき2つの法案を生み出した直接的原因であったことを明らかにした,(2)第2ラウンド(“Save the Century”)についての貴重なインタビューと資料収集,の2点が達成された。また,第1ラウンド(“Save the Old Post Office”)に関しては,引き続き,故Austin P. Leland氏の個人文庫の閲覧・複写を行なった。 この事例がアメリカのその後の保存体制(連邦所有の公共建築物を保存・維持・管理するための新たなスキーム)をも生み出したことを明らかにしたと思われる。
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