研究課題/領域番号 |
23402053
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
大曽根 寛 放送大学, 教養学部, 教授 (40203781)
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研究分担者 |
引馬 知子 田園調布学園大学, 人間福祉学部, 教授 (00267311)
高橋 賢司 立正大学, 法学部, 准教授 (60386513)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 障害者 フランス ドイツ EU / 雇用 フランス ドイツ EU |
研究実績の概要 |
研究代表者・大曽根寛教授は、本研究の代表者として、プロジェクトの企画・運営を担当するとともに、ドミニク・ヴェルシュ教授の講演内容等を含めフランスの情報を整理し、また論文を執筆し、記録として残している。 分担研究者・引馬知子教授は、2015年2月に、EUの共通政策の最新の内容を確認し、各国の政策との関係、ヨーロッパのNGO等との関係など、本研究の核心的な部分についての調査研究を行うことを目的にベルギーを訪問した。EUの欧州委員会の関係部署や欧州レベルのステークホルダーである欧州障害フォーラム(EDF)などを調査対象として訪問し、EUにおける障害のある人に関するデータ把握、障害法政策の動向、欧州社会基金の施行実態、社会保護やアクティベーションの実際と、加盟国との関係等について聞き取り調査を行った。調査から障害のある人々の社会包摂に向けて、障害に関わる労働と社会保護政策にEU全体がどのように向き合っているか、および、それを可能とするガバナンスのあり方の具体的な把握が可能となった。 分担研究者・高橋賢司准教授は、EUとドイツの相互関係に関する資料を収集し分析を行うため、2015年2月にドイツを訪問し調査を行った。 調査の目的は、障害者のための支援付き雇用制度の研究である。支援付き雇用制度は、2008年のドイツ社会法典第9篇の改正により導入されたもので、障害者の教育訓練と企業での(ジョブコーチによる)支援を柱とするもので、企業での障害者の編入を目的としている。そのため、本調査では、障害者の教育訓練を行うカッセル市内の民間の教育訓練機関とそれを管轄する行政機関、連邦雇用エイジェンシー(カッセル市)、および、ジョブコーチの財政的な助成を管轄とするヘッセン州統合局(カッセル市)、ジョブコーチを派遣する就労担当業者(カッセル市)等を訪問し、ヒアリングをするとともに、大量の資料を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、本研究の第4年度目に当たり、5年計画の終盤に当たる。平成25年度に、フランスの専門家である公衆衛生高等研究学院のドミニク・ヴェルシュ教授を日本に招聘し、意見交換等を行い、多くの情報をいただいたことを踏まえて、いよいよ収集した資料の整理と今後を展望するための基本的な視座を得ることに努めた。 本研究は、EUおよびEU加盟国(フランス・ドイツ・イギリス等)の障害者の就労と福祉に関する従来の先行研究をフォローしながらも、最近の制度と実態の把握をするとともに、相互の具体的な影響を実証的に明らかにし、その現実的な効果を正確に把握することとしている。そこで、23年度・24年度の調査と、25年度におけるドミニク・ヴエルシュ氏との議論を踏まえて、26年度は、「労働政策と福祉政策を統合するための社会システム」の具体的な素案について検討を開始した。ただ、素案の作成に関しては、作成途上であり、各団体との本格的な議論には至らなかった。 また、日本の国会において、平成25年に「障害者差別解消法」「障害者雇用促進法改正」が成立し、かつ平成26年に「障害者権利条約」が批准されたことを受けて、本研究が、今後の新たな政策展開に寄与することができるよう、国内・国外でのヒアリング等を通じて調査研究を実施した。このため、本研究では、平成26年度も、引き続き、ドイツ、フランス、イギリス等の各法とEU法の相互作用について研究し、日本との国際比較の基盤を獲得することを目標としたが、とりわけEUの共通政策ついてさらなる調査を行い、各国の特徴とEUの動向を明らかにするとともに、EUと各国の政策の相互作用のあり様について差別禁止法タイプ、雇用率システムタイプなどの類型化をし、モデル分析を継続した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、国際セミナーを開催し関係者の意見を聞くとともに、報告書の作成に集中する。国際セミナーは、労働と福祉を統合するための社会システムの具体的な道筋を明らかにしヨーロッパの例を参照しながら、具体的な方法を明らかにしていく。最終的な研究報告書では、フランス、ドイツ、EUにおける 1)「障害」概念に関する政策の歴史的な相互作用、2)障害をめぐる雇用と生活支援の実態の比較検討、3)国際比較の結果明らかになったことから示唆される日本の政策の具体的な方向性等について取りまとめる。 フランスでは、2005年2月、1975年の「障害者基本法」に取って代わる新たな枠組みとして障害のある人々のための新たな法律が公布された。この基本法の就労分野における施行実態についてまとめるとともに、EUとフランスの相互作用を研究する。 ドイツにおいては、1974年の重度障害者法が2001年社会法典に編入されるという重大な転換点を迎えた。分担研究者・高橋賢司は、ドイツにおいて一般企業への就職が困難な障害者に対する、統合のための政策、とりわけ社会的企業についての研究を始めている。 さらに、分担研究者・引馬知子は、EUにおいて、障害等に関する差別禁止と合理的な配慮を求めるEU指令が定立されて以来、その内容が各国の法律に置き換えられつつあることを確認し、EUと各国の相互作用というテーマに肉迫することとする。 以上から、フランスをフィールドとしている大曽根寛(福祉政策学)、ドイツをフィールドとしている高橋賢司(労働法学)、イギリスとEUをフィールドとしている引馬知子(社会政策)が、チームを組んで共同研究をした結果を、研究報告書の成果として取りまとめる。
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