研究課題
基盤研究(B)
H23年度は、パタゴニアにおけるカービング氷河変動を明かにし、今後の野外観測に必要なデータを得るため、人工衛星データ解析及び数値モデル実験を実施した。(1)ウプサラ氷河の変動パタゴニア氷原を代表するウプサラ氷河にて、末端位置、表面高度、流動速度の変動を解析した。過去の衛星データを用いて2000~2010年の変動を解析したところ、2008年以降に急速な後退、氷厚減少、流動増加が確認された。この結果は、パタゴニアにおいて最大級の氷河後退を明らかにすると共に、氷河流動がその変動に果たす役割を解明する上で重要なデータである。(2)ペリート・モレノ氷河の流動変化過去に観測実績のあるペリート・モレノ氷河を対象に、流動変化とそのメカニズムについて検討を行った。まず、有限要素法を用いた氷河流動モデルを用いて、過去に測定された日周期流動変化を解析したところ、上載荷重近くまで上昇した底面水圧の変化が氷河流動をコントロールしていることが明らかになった。また衛星データの画像相関解析により、流動速度の空間分布を高解像度で測定することに成功した。これらの結果は、カービング氷河の流動機構について新しい知見をもたらし、次年度以降の野外観測に重要な予備データとなるものである。(3)パタゴニアにおける広域氷河変動パタゴニア氷原全域にわたる衛星データを集積し、複数の氷河について近年の変動とその要因を解析した。その結果、カービング氷河の変動が岩盤地形および氷河表面傾斜にコントロールされている可能性が示された。この結果は、パタゴニアでの広域氷河変動を理解する上で重要な知見であり、今後の野外観測、衛星データ解析に指針を与えるものである。以上の成果は、国内外の学会および学術誌にて公表した。特にペリート・モレノ氷河の流動変化に関しては、引用頻度の高い国際学術誌に公表され、新聞報道などの注目を集めた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は当初の計画通り、(1)人工衛星データを用いてペリート・モレノ氷河とその周辺のカービング氷河の標高、末端位置、流動速度の測定を行い、(2)それらの氷河について過去の変動を解析し、(3)今後の野外観測に必要な基礎データの所得を実施した。以上に加えて、過去の報告を上回る速度でウプサラ氷河が後退していることを発見し、その変動について詳細なデータを得ることができた。したがって、当初の計画以上の進展と考える。
今後は当初の予定通り、人工衛星データを用いた解析を進めるとともに、H24おびH25又にパタゴニアのカービング氷河で野外観測を実施する。当初の計画以上に人工衛星データの解析で成果が挙がりつつあるため、衛星データ、解析機器やソフトウェアの購入など、解析環境の整備を検討する。野外観測に関しては、H25年に予定している熱水掘削の実施場所の選定を進め、人工衛星データとリンクした観測データを取得するための計画立案を行う。H25年度後半からH26年度にかけては、数値モデル実験を積極的に推進し、衛星データ、観測データと合わせて当初の目標であるカービング氷河の変動メカニズムの解明を目指す。
すべて 2011 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)
Nature Geoscience
巻: 4 ページ: 597-600
doi:10.1038/ngeo1218
Bulletin of Glaciological Research
巻: 30 ページ: 1-17
Annals of Glaciology
巻: 52(58) ページ: 31-36
Natural hazards and Earth System Sciences
巻: 11 ページ: 2149-2162
http://wwwice.lowtem.hokudai.ac.jp/~sugishin/photo_album/moreno2010/moreno2010.html
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/topics/press_release/110808_pr_lowtem.pdf