研究概要 |
新原生代後期(7.3~5.4億年前)は地球環境の激変期であり,多細胞動物が進化した生物圏革新期でもある。極度の寒冷化が繰り返し起こっていたこの時代に動物が多様化したことは,地球生命史最大の謎の1つである。研究代表者らはこの謎に対する解答として,後氷期の層状化海洋での懸濁有機物の増加により多細胞動物が進化したとする「DOXAM仮説」を提案した。本研究の目的は,ブラジルおよび中国に分布する堆積岩の有機・無機炭素安定同位体比とバイオマーカーの分析結果から,独自の仮説を検証することにある。 今年度はブラジル国バーイア州(9月)と中国湖南省(4月)・江蘇省(3月)で新原生代の地層を対象にした野外調査と試料採集を行なった。 ブラジルでは,微生物もしくは海綿動物が作ったと思われる礁構造が露出するユッサラ周辺の2カ所の露頭を詳細に検討した。持ち帰った試料の薄片を作成したところ,1カ所で採集した試料から明らかな生物骨格化石を見いだした。これは世界最古有殻動物の1つであると考えられる。これらの地層は750Maのスターチアン氷期以降に堆積したものであり,動物進化がこの時代に進行していたことを示す証拠となりうる。 また,中国で採集した試料の解析も進めている。湖南省のエディアカラ紀前期の地層(Dousshanto層)からは,有殻生物の化石を見いだした。また,酸素・炭素・ストロンチウムの同位体比の測定も進めており,層序対比や環境変動についての議論を進めている。なお,岩相層序と環境変動に関する成果の一部は国際誌に掲載された(Kunimitsu et al.,2011)。 その他,本研究の動機であるDOXAM仮説を解説した論文も出版した(Kano et al.,2011)。
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