日本の古代ガラスの組成的変遷をアジアとの関連で明らかにすることを目的として、研究を進めた。西アジアから東アジアの各地の出土ガラスの定量分析と顔料の特性化を行い、日本の古代ガラスの化学組成と比較することで、物質移動を解明した。その成果は、東京理科大学近代資料館の企画展「古代文化財の謎をとく」(11月5日~12月14日)で総合報告し、一般市民に対して研究成果を分かりやすく紹介した。 ①シルクロードの重要拠点である、中央アジア・キルギスのガラスの分析が念願であったが、実現することができた。キルギスのビシュケクにある国立歴史博物館で63点、オシュにあるスライマントー博物館で55点、ガラスの収蔵品の分析を行うことができた。ビシュケクのAD 2-4Cのガラスのほとんどは、植物灰ガラスであった。赤色ビーズは、ムチサラで日本と類似し、起源はインドが考えられた。オシュのガラスはAD 1-4Cで、カリガラス7点が認められた。日本との関連では、アルミナソーダ石灰ガラス1点、カリガラス2点が組成的に類似していた。ビシュケクでは、植物灰系のソーダ石灰ガラス製のライオンの頭をもつ国宝級のガラス容器を分析できた。②海外調査でのもう一つの大きな成果は、インドの古代ガラスの分析が実現したことである。南インドのケーララと、ボンベイ近郊のデカンカレッジで分析し、特に後者では、NEVASA遺跡出土の典型的なインドパシフィックビーズの分析ができたことが、重要な成果である。これらは、日本の古墳出土の資料と同一の起源と考えられる。そのほか、トルコのボアズキョイ遺跡のAD 2-4Cの出土ガラスを分析した。典型的なローマガラスで、西のガラスのレファレンスとすることができた。③日本国内では、北海道の古代ガラスを分析できたことが大きな成果で、ガラスの国内移動について知見が得られ、これらの成果を元に日本の古代ガラスの起源を議論した。
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