研究課題/領域番号 |
23404011
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大津 宏康 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40293881)
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研究分担者 |
立川 康人 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40227088)
小林 晃 関西大学, 工学部, 教授 (80261460)
稲積 真哉 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90362459)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 集中豪雨 / 斜面 / 土砂災害早期警戒体制 |
研究概要 |
平成23年度・平成24年度の研究において,タイ・ナコンナヨックおよびタイ・プーケット(以下,それぞれNサイトおよびPサイトと称す)の斜面での原位置計測データの分析結果から,以下のような知見を得ている. 1)集中豪雨時の斜面表層部の水収支関係においては,原則的には降雨量は表面流出量および地中への浸透量の2者に分離されるが,降雨直後の比較的短期間には両者加え表面貯留量が発生する.そして,この表面貯留量の発生・消散の機構は,斜面を構成する地盤条件(空隙率・透水性等)に依存することを,一次元貯留関数モデルを用いたシミュレーションにより明らかにした.すなわち,Nサイト(風化流紋岩を用いた盛土斜面)では空隙率が大きく透水性が低いので降雨開始直後に表面貯留量が発生するが,浸透量が小さいため次第に表面流出量が支配的になる.一方,Pサイト(風化花崗岩・まさ土の切土斜面)では空隙率が小さく透水性が高いので,降雨開始直後に発生する表面貯留量は小さく,地中への浸透量が支配的になる. 2)表面貯留量が発生することで,浅層破壊の要因となる浸透量の時間変化は,降雨波形とは異なる特性となる.このため,飽和・不飽和浸透流解析で,一次元貯留関数モデルにより算定された浸透量を流量境界として与えた結果,実測値との比較で従来の手法に比較してより整合性の高い結果が得られた. 3)室内試験の結果より,不飽和土の強度定数(c',φ')は,降雨浸透による飽和度の上昇に伴い低下するとの知見が得られた.この関係を基に,体積含水率および間隙圧の計測結果を用いた斜面の安定性を評価した結果,斜面中腹部に比較して法尻部での飽和度の上昇が大きいことから,法尻部の安全率の低下が顕著である. 以上の事項から,土砂災害早期警戒体制を立案する上では,地質条件の内でまさ土,また原位置計測の着目箇所としては斜面法尻部を対象とすることが有効である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
降雨時の斜面表層部の水収支関係に関して,水文学の分野ではHortonらの既往の研究において,表面貯留量が発生する可能性について理論的には指摘されていたが,原位置計測により確認された事例はほとんど報告されていない.これは,水文学で対象とする流域面積が大きく,かつ計測間隔が比較的長かったことによるものと推察される.これに対して,本研究では比較的小規模な斜面を対象とし,かつ計測も降雨時には1分間隔で実施したことで,表面貯留量を計測することが可能となった. また,表面貯留量は,時間が経過することでその大部分は地中への浸透量へと変化する.このため,一次元貯留関数モデルを用いて,浅層破壊の要因となる浸透量の時間変化をより精度よく評価することが可能となったため,数値解析における降雨浸透に伴う体積含水率・間隙圧の変動挙動が適切に評価できることとなった. さらに,降雨に伴う不飽和土の強度特性の変化を考慮した,斜面安定性評価が可能となるとともに,降雨に起因する浅層崩壊においては斜面法尻部が最重要な監視箇所となることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の内容は,(1)タイにおける斜面表層部での水収支および斜面安定に関する原位置計測データの分析・解析,および(2)土砂災害早期警戒体制の立案に関する研究からなる. (1)については,インドシナ地域で斜面崩壊が最も多発している風化花崗岩(まさ土)からなるプーケットの道路斜面表層部に計測器を設置し,降雨時の挙動に関する計測を継続する.そして,原位置で得られた計測結果を分析するとともに,一次元貯留関数モデル,および飽和・不飽和浸透流解析手法を用いたシミュレーションにより,集中豪雨に起因する斜面浅層部での降雨に起因する地盤内の体積含水率・間隙圧の変動特性,および降雨が斜面安定性に及ぼす影響について検討を継続し,土砂災害早期警戒体制を立案するための基礎データの蓄積を図る.具体的な計測項目については,平成23年度・24年度の研究と同様に,体積含水率,間隙圧,表面流量,雨量を予定しているが,これまでの研究成果より,斜面表層部の挙動,なかでも浸食破壊・浅層破壊の発生要因となる危険性がある表面貯留量の特性を明らかにするため,より浅層部に計器を設置する予定である. (2)に関しては,(1)の検討により得られた知見に基づき,インドシナ地域における集中豪雨に対する土砂災害早期警戒体制の立案を図るものとする.この際に,既研究として透水性の比較的低い中塑性粘性土地盤からなるタイの他地点(タイ・ナコンナヨック地点)で得られた豪雨時の斜面表層部での体積含水率および間隙圧の変動特性との比較検討により,まさ土斜面の挙動の相違についても検討を加える.具体的には,他地点で得られた透水性の比較的低い地盤の斜面と,まさ土斜面での水収支との比較検討から,地盤条件が土砂災害早期警戒体制での判定量となる降雨指標に及ぼす影響について明らかにする. これらの研究成果については,得られた知見を取りまとめ学会発表を行う予定である.
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