研究概要 |
本研究では日本「原産」の侵略的外来アリ種に注目し,国外侵入先と自然分布域である日本国内で生態・行動・遺伝情報を徹底比較することにより,侵略の生態学的機構を解明し,被害低減の方法を考案することを目的とする.実は近年日本由来の外来アリ種が北米で急速に分布を拡大し,生物多様性保全上と衛生上の甚大な被害を与えているが,これは日本の生態学者にとって侵略アリの自然個体群情報を収集できる絶好の機会である.そこでこの研究では,日米の侵略的社会性昆虫研究のエキスパートが協力し,生物学的侵入に関する既存の諸学説を経験的に徹底検証を試みた.初年度の本年は,オオハリアリに注目し,日米個体群を同じ条件で比較可能する野外サンプリングの方法を試行錯誤の末以下のように決めた.(1)0.9kmのトランゼクトを設け100mごとに半径10m以内の朽ち木内に営巣していたアリを採取する(各トランゼクト内に10個小サイトが存在).朽ち木内に棲む他種アリやシロアリも記録する.また周辺の落葉と朽ち木もサンプリングする.(2)巣毎のオオハリアリのサンプルを基本調査単位とし,DNA,体表炭化水素などを比較する(DNA分析と安定同位体分析に関しては一部サンプルで解析済みである).(3)実験室に持ち帰った直後,巣間相互導入により種内の敵対的なユニット(巣群)の存在を,個体を1対1で対峙させるアリーナテストで確認する.女王アリは解剖し繁殖活性に関する情報を収集する.現在までにこのトランゼクトはノースカロライナと岡山県内で各5カ所程度設置した上記サンプルを収集し解析中である. 敵対性の生物検定の結果は意外であった.北米でも日本でも100m毎の各ポイント内でアリは異巣であっても敵対しないが,ポイント間で敵対することが示された.すなわちいずれも多巣多女王性のスーパーコロニー性を示すが,その空間的な大きさには,侵入元と先で大差が無かったのである.まだ予備的なDNAデータもこれを裏付ける内容だった-来年度では多巣多女王コロニーの空間規模をより詳細に日米調査地で比較する. また,同一朽ち木内に営巣するオオハリアリと他種アリおよびシロアリとの共存関係に日米で違いがみられた.日本国内では同所的に分布するオオハリアリとナカスジオオハリアリの間に社会構造の地理変異と形質置換的な現象を確認された.
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