タイ国北西部のターク県メーソット郡にはタイ国最大の亜鉛鉱山が存在し,鉱山を流れるメータオ川下流には,流出したカドミウムによって汚染された水田地帯が広がっている。本研究は現地生産者のカドミウム摂取リスクを低減するため,白米中のカドミウム含有率が低く,かつ現地での栽培に適したイネを選抜することを目的としている。昨年度までの3年間に,現地汚染水田においてタイ国水稲品種42品種の栽培試験を行い,RD15号の籾カドミウム含有率が人気品種のKDM105号に比べて約70%低いことを明らかにした。 平成25年度は, 2カ所の圃場において水田一枚全面にRD15号を植え付けて栽培し,カドミウム含有率調査とともに収量調査を行った。収量については,700m2の水田で約300kgの籾収量が得られ,これは現地の収量水準に比較して充分である。カドミウム含有率については,隣接水田のKDM105号に比べ約75%低いことが示された。 またRD15号への作付け転換を促進するため,作付け前の4月に現地生産者向け説明会を開催し,これまでの成果を報告した。説明会ではRD15号に転換した場合のカドミウム含有率低下の割合と経済的影響の兼ね合いについてや,種子の供給体制について活発に議論された。説明会をうけて,RD15号を試験的に栽培する協力農家が得られたので,これらの農家圃場の籾試料についてもカドミウム含有率調査を行った。この結果,4カ所の生産者圃場のうち3カ所では,隣接水田のKDM105号に比べてカドミウム含有率が小さいことが示され,土壌条件や栽培管理によらずRD15号の籾カドミウム含有率が低い可能性が示された。
|