近年の穀物価格の高騰は、大規模穀物輸出企業の利潤を増大させるとともに、生産者の収益増大にもつながるはずであるが、実際のところ、特に発展途上国における生産者の収益は増大していないとの指摘がある。完全な卸売市場の下では生産物価格の上昇は生産者の利潤を増大させるが、卸売市場における買手寡占や情報の非対称性が存在する場合、生産者の利潤増大は必ずしも達成されないと考えられる。本研究では、卸売市場におけるこれらの現象が起こるメカニズムを理論的に解明するとともに、価格伝達の度合いについて測定し、アジアの農産物市場を対象とした実証分析により、それらの実態と要因分析について定量的に明らかにすることを目的とする。 本年度はこれまでに行われた研究のとりまとめを行うとともに、補足的な分析を実施した。特に、食品加工業者と卸売業者の双方が市場支配力を行使する双方寡占状態の理論モデルの前提について再検討し、開発した理論モデルが適用できる前提条件をより厳密に特定化した。また、統計収集地域として新たにカンボジアを追加し、カンボジアにおける米を中心とする農産物の流通過程を対象として実態調査を行い、双方寡占が存在するか否かについて地域ごとに把握するとともに、関連するマイクロデータへのアクセスを得た。
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