明治中期まで日本には、北海道にエゾオオカミが、本州、九州、四国にはニホンオオカミが生息していた。しかし、今では、その雄姿をみることはできない。本研究は、絶滅したエゾオオカミとニホンオオカミの起源と系譜を明らかにする目的で、日本周辺の諸国(中国、ロシア)にて海外調査を実施する。これまでに、ロシア・沿海州のウラジストックなど、地理的に日本に近く北ルートを介して日本に渡来するおそれのある地域について解析してきた。平成25年~26年にかけては、朝鮮半島ルートからの渡来を考えた場合、重要な調査域となるロシア・ウラル地方および中国・東北部について調査を行った。また、これまでと同様に日本の各地に飼育されている狩猟犬についても、ニホンオオカミの系統の残存を探る目的で遺伝的に解析した。 1)ロシア・ウラル周辺地域から出土したイヌ・オオカミの遺伝子解析:ロシア・エカテリンブルクの植物・動物生態研究所に保管されている古代のイヌ・オオカミの下顎骨62サンプルについて、骨粉を採取して常法に従って古ミトコンドリア(mt)DNA解析を行った。しかし、ニホンオオカミと同じDNA配列を示す古代骨は検出されなかった。 2)中国・東北部のイヌ・オオカミの遺伝子解析:吉林大学に保管されているイヌ・オオカミの古代骨54点について古DNA解析を行ったが、ニホンオオカミと同じ配列は検出できなかった。 3)日本の狩猟犬のmtDNA解析:これまでと同様に、各地で飼育されている狩猟犬の中にニホンオオカミの系統が残存していないかを知る目的で、採取した血液から総DNAを分離し、mtDNAのDループを遺伝子解析した。検査したサンプルは、東北地方(宮城県、山形県、岩手県、青森県)と北海道にて飼育されている狩猟犬148頭であるが、ニホンオオカミの系統を有する固体はみつからなかった。
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