研究課題
25年度はバングラデシュおよびフィリピン産肝蛭の系統解析を行った。バングラデシュの6地域でウシ、バッファロー、ヒツジ、ヤギの胆管より147虫体を得た.虫体の精子型は染色標本から貯精嚢内精子の有無によって確認した。各虫体から全DNAを抽出し,ITS1型についてはPCR-RFLP法によりFh型,Fg型,Fh/Fg型を識別し、nad1型については,PCR産物の塩基配列 (535bp) をダイレクトシークエンス法により決定しハプロタイプ型として識別し,アジア各国産肝蛭のハプロタイプ型とともに系統解析を行った.その結果、20虫体は有精子型,127虫体は無精子型であり、バングラデシュでは無精子型肝蛭が優勢であることが判明した。有精子型肝蛭はITS1型がFg型であったことから,F. giganticaと同定された.無精子型肝蛭のITS1型は98虫体がFg型、29虫体がFh/Fg型であった.nad1型はF. gigantica20虫体において10ハプロタイプ( Fg-NDI-Bd1~Fg-NDI-Bd10)が識別され,単為生殖型肝蛭127虫体は同一のハプロタイプ(Fsp-NDI-Bd11)であった。Fsp-NDI-Bd1は日本、韓国、中国、ベトナム、タイ、ネパール由来の単為生殖型肝蛭のハプロタイプと配列が完全に一致した。このことは、これらのハプロタイプの母型祖先は同一であり、比較的近年に宿主動物(ウシ?)とともにアジア地域に分布を拡げたと考えられた。一方、F. giganticaは単為生殖型肝蛭よりもかなり古い時代にバングラデシュに侵入し、founder effectによりバングラデシュ独自のハプロタイプ集団を形成したと考えられた。また、バングラデシュ優勢なF. giganticaハプロタイプはミャンマーやネパール産F. giganticaと近縁であり、アジア地域のゼブウシやスイギュウの分布拡散との関連性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
25年度に計画していたバングラデシュ国およびフィリピン国の肝蛭虫体について予定以上の進捗状況で研究成果を得ることができたこと、さらにはそれらの研究成果を国際的な専門雑誌に掲載または受理されたことによる。
25年度の研究成果から、中国で誕生後、周辺諸国にその分布を拡大していると考えられる単為生殖型肝蛭(無精子型肝蛭:aspermic Fasciola sp.)が、東南アジアのバングラデシュ、さらには島国であるフィリピンから検出され、そのnadIハプロタイプは他のアジア諸国(日本、韓国、中国、ベトナム、タイ、ミャンマー、ネパールなど)で検出されたハプロタイプと同一であったことから、比較的近年に家畜の移動と共に分布域を拡げたことが推察された。今後は家畜の品種やその分布などとの関連性を検討することが必要であろう。また、F.giganticaの主要な伝搬者であると考えられるゼブウシはインド(現パキスタン)で家畜化されたと考えられていることから、F.giganticaの分布・拡散の解明にはインドの肝蛭虫体の解析が重要であると考えられ、26年度はインドを主体とした調査解析を行う。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (13件)
Parasitol. Res.
巻: in press ページ: in press
J. Vet. Med. Sci.
巻: 75 ページ: 309-314
Parasitol Res
巻: 112 ページ: 3653-3659
Experimental Parasitology
巻: 135 ページ: 102-109
Vaccine
巻: 31 ページ: 5518-5523
獣医寄生虫学会誌
巻: 11 ページ: 71-79