研究課題
アジア地域(中国,タイ,ロシア)において、大気(室内)環境汚染の程度と汚染の特徴の異なる地域住民を対象にした曝露調査を実施し、被験者の大気(室内)汚染物質の曝露量と生体影響を評価することを目的として三種類のバイオマーカー(発生源マーカー,曝露マーカー,及び影響マーカー)を測定し、同時に大気中の粉塵や汚染物質濃度を測定する。得られたデータ群をプロファイル化して網羅的に解析し、曝露量に対する各燃焼発生源の寄与度や生体影響との関係を明確にすることで地域住民の曝露実態や地域特性を明らかにし、環境改善のための政策立案に役立てることを最終目標とする。本研究で用いる尿中バイオマーカーは、呼吸を介して曝露された大気汚染物質に由来する成分を尿中から検出し、尿中排泄レベルによって曝露量や燃焼発生源寄与度を評価するものであり、従来の大気観測に加えて実施することでより正確な人体曝露量を反映した健康影響評価を行うことができる。平成25年度は次の研究を実施し、成果を得た。中国瀋陽の都市部在住の被験者(タクシー運転手)に対する個人サンプラーによる微小粒子状物質(PM2.5)への曝露評価から、自動車排ガスによるPM2.5への曝露が従来の石炭燃焼由来に比べて無視できないことが分かった。また、タイ・チェンマイにおいて採取済みの尿について、DNAの酸化損傷のマーカーとして核酸塩基の酸化物である尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)を平成23年度に開発した分析法で分析した結果、被験者群間で有意差は観察されなかった。また、24年度に測定した活性酸素を発生するフェナントレンキノン(PQ)の尿中代謝物濃度と8-OHdGとの間に相関関係はなく、多量のPQに曝露しても、必ずしも酸化ストレスが亢進しないことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
昨年度までにタイや中国で捕集した尿試料及び粉じん試料について、当初計画したバイオマーカーや粉じん中の多環芳香族炭化水素類と燃焼マーカー物質について順調に分析を行い、タイにおける木材燃焼煙の高濃度曝露が発がん物質や活性酸素生成物質への曝露を引き起こしていることが明らかになっている。一方で、酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdGのデータから、高濃度曝露が生体影響として明確に表れていないことも判明した。また、予定通り中国瀋陽市において大気汚染調査を追加実施して自動車排ガスによるPM2.5曝露の重要性を明らかとした。しかしながら、24年度に肺がんの患者が特に多いタイ北部のランパーン県において追加調査を実施して得た試料について25年度中にすべての解析が終了しなかった。予定の項目をすべて分析できなかったものの、概ね順調成果が得られている。
タイ北部のランパーン県及び中国瀋陽市において追加調査を実施して得た粉じん試料について、引き続き多環芳香族炭化水素(PAH)、自動車排ガスに由来し変異原性の高いニトロ多環芳香族炭化水素(NPAH)、活性酸素を産生するキノン類、木材燃焼煙マーカーのレボグルコサン等について分析する。次年度は最終年度であることから、これまでの研究で得られた尿試料のバイオマーカーデータと個人サンプラーで捕集した粉じんの化学分析の結果を用いてより詳細な個人曝露状況の解析を実施して被験者の曝露量や燃焼発生源の寄与度について明らかにする。
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