研究課題
高病原性鳥インフルエンザウイルスは、現在では、東南アジアに加えて、エジプトにおいてもヒトへの感染例が多くなってきている。特に、エジプトへは2006年に最初に侵入し、その後速やかに摘発淘汰とワクチンプログラムを実施したが、この初期の制圧に失敗した。その結果、2008年にはアウトブレイクが断続的に発生し、2009年以降には世界で最もヒト感染例が多い特異な国となってしまっている。したがって、エジプトのニワトリやアヒルにおける鳥インフルエンザウイルスH5N1のサーベイランスがきわめて重要な状況となっている。そこで、エジプトのニワトリおよびアヒルからのH5N1検索用サンプルを入手し、その遺伝子解析を進めた結果、これまでに徐々に遺伝子変異を起こし、進化の跡が認められた。さらに、レセプター糖鎖特異性について検討した結果、ヒトの呼吸器領域への結合性を容易にする変異株の存在が認められた。また、ウイルス表面タンパク上の抗原性に変化が生じていることを見出した。一方、2009年の豚に由来するインフルエンザウイルスH1N1pdm(2009)に対する迅速診断キットを作製し、その検査の有用性について、日本およびタイ(マヒドン大学熱帯医学部)において検討した。
2: おおむね順調に進展している
本事業における研究目的は、高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1の常在国であり、近年ヒトへの偶発感染事例が際立って多いエジプトにおいて、H5N1ウイルスの包括的な疫学調査と遺伝子・ウイルス性状解析を実施することで、同国におけるウイルス感染状況と進化動態を把握することであった。したがって、これまでに実施し、得られた成果から、概ね計画通り達成されたと考えられる。これらの結果の一部は、PLoS Pathogens やJournal of General Virologyに報告した。また、これらの成果に関して、総説依頼があり、Trends in Microbiology、EMBO Reportsに執筆した。
これまでに日本側研究者はエジプトを数回訪問し、また、エジプト側研究者を日本に数回招聘した。エジプトでは、Joint Scientific Forum on Avian InfluenzaやWorkshop on Rapid Diagnosis of Influenzaを開催してきた。このような企画をアレキサンドリア大学やダマンフール大学と合同開催することで、密接な情報・意見交換の機会を設けることができた。また、現地における獣医領域と医学領域の連携が重要であることが再認識される結果となった。したがって、今後もできるだけ多くの機会をこのような企画に充てたいと考えている。尚、平成24年度にエジプトにて開催を予定していたJoint Scientific Forum on Avian Influenzaについては、北エジプトの社会情勢悪化を考慮して実施を見送り、日本国内での実験を優先的に推進した。
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