研究課題/領域番号 |
23406037
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研究機関 | 独立行政法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
木村 壯介 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 病院長 (30118450)
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研究分担者 |
JESMIN Subrina 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60374261)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 閉経後 / 糖尿病 / バイオマーカー / リスク予知 / 臨床評価 / 日本 / バングラデシュ / イノベーション |
研究概要 |
我々はこの研究で、閉経後女性における糖尿病とその臓器合併症に関する診断・治療上の指標として、エストロゲン以外の標的分子を開発することを目的とする。バングラデシュおよび日本の閉経後女性を研究対象とし、糖尿病とその臓器合併症のリスク予測および重症度のバイオマーカーの1つとしての血管内皮増殖因子(VEGF)の臨床的有用性を証明する。 1)糖尿病発症予測因子としての血液中VEGF値の有用性を検証するための、コホート研究を行う。 2}糖尿病とその心血管系合併症の重症度とVEGF発現レベルの関係を研究する。 3)閉経後女性における血中VEGF値の正常値を、性別、年齢や民族ごとに設定する。 今年度、我々は以下のように調査、研究を進めた。バングラデシュ4地域及び日本3地域で、閉経後女性の基礎的測定項目およびVEGF値の正常値の統計学的評価を行った。さらに、これらを年齢、性別、民族ごとに評価/解析し、合わせて倫理的/法律的/社会的実現性や継続性の評価を行った。また、症例対照研究として、4『70歳の閉経後女性糖尿病患者350名、年齢やその他背景を合致させた健常者350名の2群(power=90%,alpha=0.05)を比較した。 調査研究の結果、バングラデシュ閉経後女性の49.62%に空腹時血糖値の上昇を認めた。バングラデシュにおける閉経後の女性の39.67%がメタボリックシンドロームの診断基準を満たしていた。我々はバングラデシュの閉経後女性において基準(目安)となる血中VEGFレベルを検証した。女性の血中VEGF値を調節する要因は、閉経前と閉経後では異なる事が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の我々の調査でバングラデシュの閉経後の農村部女性の49.62%に空腹時血糖値の上昇を認めた。加えて、バングラデシュの閉経後の農村部女性の39.67%がメタボリックシンドロームの診断基準を満たしていた。我々は既にバングラデシュの閉経後女性において基準(目安)となる血中VEGFレベルを検証した。平均VEGF値は438.86±12.0vs. 562.42±18.38pg/ml, p=0.001(閉経前vs.閉経後)だった.同対象を用いた血中可溶性VEGF受容体(sVEGFR)1およびsVEGFR2の濃度はについてはも、sVEGFR1レベル(閉経前vs.閉経後:1408.40±185.24vs._628.25±41.31pg/m1, p=0.001)、及びsVEGFR2レベル(閉経前vs.閉経後:9766.36±125.90vs. 9343.22±110.55pg/ml, p=0.01)だった。血中VEGFは上昇する一方で、受容体群は低下していた。つまり、女性の更年期が進むと、VEGFのシグナリングが、その受容体レベルで中断される可能性がある。さらに、閉経後の血中VEGF値は、BMI、血漿トリグリセリド値、空腹時血糖値、空腹時インスリン値、血漿コレステロール値、血漿LDL値と、各々統計学的に有意に相関を示す事が分かった。また、段階的重回帰分析から、空腹時インスリン値と腹囲は、閉経後の血中VEGF値に対して独立要因となることも分かった。それとは対照的に、閉経前の女性における血圧とBMIは、血漿VEGF値と有意に相関していた。また、重回帰分析より、それぞれのパラメーターは閉経前の女性においては、血中VEGF値と有意差を示さなかった。以上より、女性の血中VEGF値を調節する要因は、閉経前と閉経後では異なる事が示された。
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今後の研究の推進方策 |
研究の過去2年の成果は、VEGFが女性の更年期の発症や進展に密接に関与する重要な分子であることを示している。 我々は、閉経後の女性における糖尿病の発症におけるエストロゲンとVEGFの複雑なメカニズムを調査している。閉経後の女性では、閉経後のエストロゲン低下や枯渇に伴って、VEGFシグナリングに関与する分子間において、様々な不均衡が生じる事が示された。上記で述べたように、幾つかの心血管代謝のパラメーターは閉経後の女性において血中VEGF値と有意に関連していた。VEGFは新たな診断ツールを開発するための標的分子としての有力候補であり、様々な糖尿病性合併症に対する治療方針に関与する可能性がある。 閉経後の女性におけるエストロゲンの減少と枯渇に密接に関連する病態の指標として、血中エストロゲン自体の代替えや補完治療として、VEGFは主要な標的物質(候補)である事が示唆された。我々が継続中の閉経後女性に対するコホート研究は、本研究分野の基盤的データとなる可能性が期待される。
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