研究課題/領域番号 |
23500003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 建昭 筑波大学, 名誉教授 (80087436)
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研究分担者 |
櫻井 鉄也 筑波大学, システム情報系, 教授 (60187086)
加古 富志雄 奈良女子大学, 理学部, 教授 (90152610)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 近似グレブナー基底 / 近似イデアル / 近似特異系 / 悪条件連立代数方程式 / 悪条件方程式系の良条件化 / 特異点での多変数級数展開 |
研究概要 |
本研究は、近似グレブナー基底の理論建設と算法開発が出発点である。理論に関しては、計画書のとおり『近似イデアル』を定義し『精度防御簡約』を導入することにより、成功裏に終了した。いずれの概念も世界に先駆けたものである。算法開発に関しては、著名なBuchberger流の算法を不安定にする四つの桁落ち、[組織的,偶発的]×[完全,不完全]桁落ちのうち、偶発的不完全桁落ちを除く三つを無害化する方法の開発が成功裏に終了した。 本研究のもう一つの柱である応用に関しては、本研究代表者にとり20年来の課題であった「悪条件連立代数方程式の良条件化」に取り組んだ。まず、悪条件代数方程式系を四つの型に分類した。うち二つは近似グレブナー基底理論に基づいており、『微小主項型』と『近似特異系型』と命名した。微小主項型では係数の微小な変化が解の無限大の変化を起こし、近似特異系型では係数の微小な変化が解の個数を無限大に増大させる。近似特異系は本研究で導入された概念で、与系が近似特異であるための必要条件を導くとともに、与系を近似特異でなくする良条件化法を提案した。この方法は簡単明快だが、変換された系は与系の解をすべて含む。提案した良条件化法を、3変数3方程式系を対象に逐次Newton法でテストしたところ、この方法は予想どおり局所収束性を改善するのみならず、逐次Newton法の最大の欠点である大域収束性も大きく改善することが判明した。 本研究の大きな土台の一つである『多変数多項式の特異点での級数展開』に関しては、「級数の初項を与えるNewton多項式が無平方でない場合」と「分岐点近傍での級数の枝から枝への飛び移り」(これらは従来の研究が不十分であった)をさらに解明した。特に前者については級数の『微細構造』の存在を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近似グレブナー基底の理論建設と当面の応用に関しては、初年度の目標をほぼ達成した。 近似グレブナー基底の算法開発に関しては、算法の安定化をかなり達成したが、まだ不十分である。未達成なのは偶発的な不完全項キャンセルの無害化であるが、Buchberger流の主項消去法に立脚する限り、主項に発生した項キャンセルがすぐに他の多項式に伝播するので、無害化は非常に難しい。近似イデアルでは近似線形従属関係が存在する場合が重要であり、その場合に近似グレブナー基底は通常のグレブナー基底と本質的に異なってくる。近似線形従属関係は入力多項式の係数ベクトルから計算できるので、入力系から近似線形従属関係を先に計算しておき、その関係式を使って近似グレブナー基底を安定に計算する方法を考察している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)まず、近似特異系を利用した『多変数多項式系の特異化』に取り組む。実験や工学分野で定められる多変数多項式系は、誤差等のため本来持つべき性質が失われている場合が多々ある(例えば、有限個の解を持つべきところ、誤差のため解無しの系になっている)。代数多様体の言葉でいえば、多様体の次元が低下しているのである。本来持つべき性質を回復する算法(それを本研究代表者は『特異化』と呼ぶ)を開発する。具体的には、近似特異系に微小摂動を付加して特異系に変換するのである。(2)応用としては、制御システムの苛酷事故(たとえば日航機の御巣鷹山墜落事故など)に対して、特異点での級数展開を利用した代数的制御法の開発に挑戦する。このテーマは、本研究を開始後に得たものである。(3)余裕があれば、近似線形従属関係を利用して近似グレブナー基底算法をさらに安定化するとともに、特異点での級数展開法を多項式系(複数の多項式の組)に拡張する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費に83,721円の残額が生じたが、これは2012年3月中旬に関西に出張した旅費の支払いが次年度に延びたためであり、実質的には次年度に繰り越すものではない。 次年度は専ら、国内での研究会開催とシンポジウム参加のための旅費、及び国際会議への参加と発表のために研究費を支出する。
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