研究課題/領域番号 |
23500003
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 建昭 筑波大学, 名誉教授 (80087436)
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研究分担者 |
櫻井 鉄也 筑波大学, システム情報工学系, 教授 (60187086)
加古 富志雄 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (90152610)
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キーワード | 近似特異系 / 近似特異系の特異化 / 近似線形従属関係 / 多変数代数関数 / 特異点での級数展開 / 近似無平方分解 / 近似因数分解 / ヘンゼル級数 |
研究概要 |
本年度の個別課題は、①多変数多項式系の特異化、②特異点での級数展開による過酷事故時のシステム制御、③近似線形従属関係を利用した近似グレブナー基底計算の安定化である。 ①に関しては、入力系が近似特異であるとの前提の下、近似線形従属関係(以下、近似関係と略記)を入力多項式系の係数行列の消去で計算し、入力多項式と近似関係の係数を微小変動させて、近似関係を厳密関係に変換することで特異化を達成した。特異化では、係数の微小変動量に関する多数の線形方程式を解くのだが、変動量が小さくなるとともにいくつかの方程式が同一の式に収束する現象が生じた。この現象に対し、線形方程式の消去を適応的に行うことで冗長な方程式を排除する算法を考案した。なお、近似特異系と特異化の概念は近似代数の研究過程で本研究代表者が考案したものである。 ②に関しては、過酷事故時の航空機制御を目指し、航空機制御モデルを自作した。モデルでは、たとえば水平尾翼が完全に失われた状態は制御行列の固有値の特異点に対応するが、尾翼損壊度を変量とする不自然さのため、自然な可変量である"迎え角"、エンジン出力度、フラップ伸長度の三つを変数とし、固有値の特異点での級数展開を得た。残念ながら、特異点近傍では固有値の値が非常に小さいため、得られた級数は過酷事故時の航空機制御の役には立ちそうになかったが、計算の過程で近似無平方分解と近似因数分解が非常に重要な働きをした。近似代数が産業分野の計算で非常に有用であるとの明快な例が得られたと思う。 ③に関しては、課題2に予想以上の時間を費やしたため、手をつけるに至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の『今後の推進方策』に記した三つのテーマ(研究実績覧参照)について記す。 ①については成功裏に終了した。当初、このテーマは簡単に片付くと予想したが、特異化ステップで解く線形方程式の中に変動量の減少と共に同一化するものが存在することは予想外であった。その現象の解明と解決策の考案にかなりの時間を要した。 ②については、近似代数は元々、浮動小数係数で表される数式を多用する産業分野の計算のために創始したのに、産業分野への応用が極めて少ない状況を打破しようと、全くの畑違いの分野に挑戦したものである。航空機制御を一から勉強したが、現在の航空機制御は縦系の運動と横系の運動を分離して解析しているのが分り、それらを統合する線形制御モデルを自作する羽目になった。これに多大の時間をとられた。さらに、研究実績欄で述べたように、本研究代表者が考案した特異点での展開級数(Hensel級数)が過酷事故時の航空機制御で有用に使えるだろうとの予想が甘かった。しかしながら、Hensel級数の計算過程で、近似代数の代表的演算ともいえる近似無平方分解と近似因数分解、さらに有効浮動小数が非常に有用であることが判明したのは望外の成果である。 ③については、課題②に多大な時間を取られたため、研究が進展しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の四大テーマのうち、第一と第二は成功裏に終了し、第三は後半の理工学への応用に着手したところで、第四の大規模多項式系の局所解析法の探索は手付かずである。第四ではHensel級数の実用化が前提だが、『研究実績欄』で述べたように航空機制御とは別の応用例が必要である。求める応用例とは、特異点で級数が発散するようなものである。 次年度は、①「微分方程式の特異点近傍での数値解析の開拓」を主課題に据える。微分方程式では特異点で解が発散する実用例がいくつかあり、さらに近似代数の新たな展開への挑戦にもなるからである。その手始めとして、②産業界で問題になっている「大規模な浮動小数係数の微分方程式系の簡約における桁落ち防止法」を開発し、③「ロボット制御用方程式の数値解法における特異点での級数展開の活用法」等、微分方程式の特異点近傍での数値解法を近似代数の立場から研究する。 時間があれば、昨年度にできなかった④近似線形従属関係を利用した近似グレブナー基底計算法の安定化、等にも取り組みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の10月に北京で開催された国際会議のプログラム委員を委嘱され会議に出席予定であったが、反日デモが突発したため渡航を取り止めた。この旅費相当分を次年度の海外出張旅費として繰り越す。 次年度は専ら、国内での研究会開催とシンポジウム参加のための旅費、及び国際会議への参加と発表のために研究費を支出する。
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