研究課題/領域番号 |
23500011
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
若月 光夫 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (30251705)
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研究分担者 |
富田 悦次 電気通信大学, 名誉教授 (40016598)
西野 哲朗 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (10198484)
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キーワード | 計算論的学習理論 / 質問による学習 / 極限同定 / 等価性判定 / アルゴリズム / 決定性文脈自由言語 / プッシュダウン変換器 / 多項式時間可解性 |
研究概要 |
形式言語の部分クラスの中で実用上重要な決定性文脈自由言語を受理する決定性プッシュダウンオートマトン(DPDA),またはそれに対応した文法等に対して,その構造に妥当な制約を課した幾つかの部分クラスを研究対象として選び,計算論的な手法によって学習アルゴリズムを開発し,その応用を図ることを目的として研究を行った.本年度は以下の研究成果を得た. 1.学習アルゴリズム開発の基礎構築 DPDAに出力機構を付与した決定性プッシュダウン変換器(DPDT)の部分クラスのうち,スタック記号が1種類で受理方式を最終状態受理式とする,実時間の決定性限定1カウンタ変換器(DROCT)に対する多項式時間の等価性判定アルゴリズムを改良すると共に,これを拡張して,ε動作をもつ最終状態受理式DROCTに対しても適用可能にした.この成果は対象とするDPDTに対する質問による学習に利用できる.なお,本研究成果について,平成26年6月30日~7月2日に開催される国際会議SNPD2014にて発表を行う予定である. 2.学習アルゴリズムの開発 上記の実時間最終状態受理式DROCTに対して,所属性質問及び等価性質問を行うことによって正負の例を獲得し,目標とするDROCTを学習するアルゴリズムを改良した. この他,これまで開発してきた最大クリーク抽出アルゴリズムを改良し,計算機実験によって実行時間の著しい改善が達成されたことを確認し,他の既存の手法より高効率であることを示した.最大クリークの抽出は,DPDA及びDPDTの学習を行う際,状態の分離・統合に利用できる.また,学習ゲームを用いた発達障害児向けの文字学習支援システムや,プログラムのソースコードの類似パターンを検出する手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
学習アルゴリズム開発の基礎となる等価性判定アルゴリズムについては,これまでに,受理言語が正則言語を真に含む決定性限定1カウンタ変換器(DROCT)を主な対象として開発してきている.受理方式が最終状態受理式の場合は,ε動作を許したDROCTに対してもその等価性判定が多項式時間オーダで行えることを示した.一方,空スタック受理方式DROCTに対しては,多項式時間オーダで等価性判定を行えることを保証するためには,ε動作に制約を課さざるを得ないのが現状である.ε動作に制約のない空スタック受理式DROCTに対して等価性判定が多項式時間オーダで行えるよう,アルゴリズムを拡張する必要がある. 学習アルゴリズムの開発については,実時間最終状態受理式DROCTの質問による学習アルゴリズムを提案したが,今後厳密な計算量解析を行う必要がある.また,準同型写像による変換によって拡張された言語クラスを対象とした,正例からの極限同定の統一的手法に関する研究成果をまとめ,論文投稿の準備を進めている. 学習アルゴリズムの応用については,正則言語の部分クラスであるk可逆言語の正例からの極限同定アルゴリズムを組み込んだ,鳥(ジュウシマツ)の歌構造解析ツールEUREKAを利用して,トランプゲームの一つである大貧民のプレイヤーの挙動を解析しているが,本格的に計算機実験を行い,研究成果をまとめる必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
学習アルゴリズム開発の基礎構築については,これまでに研究成果として得てきた等価性・包含性判定アルゴリズムを基にして,その手法を発展させることによって,構造の制約を緩和した更に上位の言語クラスに対する判定アルゴリズムを開発し,その簡単化・効率化を図る.具体的には,ε動作に制約のない空スタック受理式DROCTに対する多項式時間の等価性判定アルゴリズムを開発する. また,学習アルゴリズムの開発については,これまで開発してきた学習アルゴリズム等の研究成果を基にして,その手法を発展させることによって,更に上位の言語クラスに対するMAT学習等の質問を用いた学習や極限同定による学習を行うアルゴリズムの開発を行い,その多項式時間学習可能性を明らかにする.具体的には,最終状態受理式DROCTおよび空スタック受理式DROCTに対する質問による学習や,その部分クラスに対する極限同定を行うアルゴリズムを開発する. 更に,これまでに開発してきた学習アルゴリズムを適用することによって,実際的な問題への応用を図る.具体的には,マルチエージェントシステムにおける各個体(エージェント)の挙動の制御モデルを順序機械等のオートマトン(や変換器)として捉え,個体の挙動の履歴からオートマトンの入出力列の例を生成し,そのオートマトンに対する正例からの極限同定アルゴリズムを適用して,個体の制御モデルの同定や挙動の予測を行う.また,これまでに開発してきた,k可逆言語の正例からの極限同定アルゴリズムを組み込んだ鳥の歌構造解析システムEUREKAを利用することによって,ゲーム情報学におけるプレイヤーの行動予測等,他の新たな分野の問題に応用する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に,実時間最終状態受理式DROCTに対する質問による学習アルゴリズムを開発し,その研究成果を国際会議及び国内学会の研究会において発表する予定であったが,アルゴリズムの正当性を証明し,厳密な計算量解析を行うのに時間を要しているため,計画通りに外国出張及び国内出張が行えず,次年度使用額が生じた. 次年度使用額は,得られた研究成果を国内外の国際会議や国内学会の研究会等で発表するため,主に旅費として使用する.なお,平成26年6月30日~7月2日に開催される国際会議SNPD2014で発表を行う予定である.
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