研究課題
「折る」という行為は身近な操作であり,工業的・商業的な応用範囲も非常に広い.ところがこれをコンピュータサイエンスの観点から研究している研究者は,日本ではほとんどいないのが現状である.申請者はこれを中心的な研究テーマに据えて,研究を行っている.アルゴリズムの観点や計算量の観点から研究を行い,平成23年度は査読付きの海外のジャーナルに英語の論文が10本採録され,審査付きの国際会議に論文が8本受理された.中でも特に次の二つのテーマについて,特筆すべき成果が得られた.展開図の研究:まず複数の多面体に共通する展開図の研究として,特に「正四面体と立方体に共通する展開図」について大きな進展が得られた.ある種の展開図は,立方体と,ほぼ誤差0の正四面体を折ることができることがわかった.また「複数の箱を折れる展開図」についても,多彩な結果が得られた.展開図という未開拓分野に関して,多くの新しい知見が得られた.折り紙の計算モデル:折り紙の折りのモデルと,その上でのコストの評価をするためのモデルについて,いくつかの結果を出すことができた.折りのコストとして,折りの回数と,折ったときの紙の状態を評価する方法を提案し,その評価の困難性について,アルゴリズムと計算量の観点から,いくつかの結果を出すことができた.また,折りのモデルについては,紙という対象の特徴を生かしたモデルが提案できた.その上での判定不能性という,意外な結果も出すことができた.上記の二つの結果は,非常に新規性があり,また幅広く受け入れられている.コンピュータサイエンスの観点から見た「折り」の科学について,着実な成果を出しつつあると考えている.
2: おおむね順調に進展している
ほぼ計画通り,コンスタントに研究成果を出している.特に,幅広い共同研究者と積極的にコンタクトをとり,議論をしながら研究を進めるという当初の計画に従い,積極的に国際会議に参加して発表するというスタイルが実践できていると考えている.大きく二つの分野に対して,以下のような成果を達成した.幾何的な構造を持つグラフ:幾何的なグラフ構造が背後に隠れた身近なテーマとして,ゲームやパズルがあげられる.こうしたゲームやパズルの背後の計算量的な複雑さを解明することもこのテーマの重要な側面である.現在までにVoronoiゲームと呼ばれる,地形図に基づいたゲームや,論理式に基づいたゲームなどの計算量を明らかにし,『ゲームとパズルの計算量』というタイトルの訳書も出版した.後者はMITの新進気鋭の学者の博士論文がベースになった本であり,この分野の最新研究情報をサーベイしている一方で,新しい枠組みを提案しており,今後,この分野のバイブル的な本になると考えている.同書をいち早く日本語で提供できたことは,今後の日本におけるこの分野での優位性を高めたと考えている.グラフアルゴリズムの提案:幾何的な特徴付けをもつグラフのクラスに対して,効率のよいアルゴリズムを開発することは,この分野の研究の王道である.いくつかのグラフクラスにおいて,効率のよいアルゴリズムを開発して,論文として出版することができた.これはおおむね当初の計画通りのペースで進んでいる.
平成24年度は,申請者は1年間の研究休暇(サバティカル)を取得できた.そこで1年間かけて,北米とヨーロッパを移動して,当初の予定通り,海外の研究者と積極的に会い,議論をし,研究成果をコンスタントに出すという方法を踏襲する.具体的には,以下のスケジュールで移動する予定である.4月~6月:カナダのSimon Fraser Universityにて,ホストのPavol Hell氏と幾何的な構造を持つグラフクラスに対する効率のよいアルゴリズムを開発する.7月~12月:アメリカのMITにて,ホストのErik Demaine氏と,剛体グラフ,つまり折り紙などの幾何的な構造に対する研究を行う.1月~3月:ベルギーのブリュッセル自由大学にて,ホストのStefan Langerman氏と,幾何的な構造を持つ対象に対する効率のよいアルゴリズムの開発を行う. 特に計算幾何学の分野では,北米やヨーロッパの研究者が,フェイストゥーフェイスで直接議論をしながら,内容を深めて論文を書く,というスタイルで活発に研究を行っている.彼らの中に積極的に入り込んで,彼らとの共同研究を,さらに深める予定である.
平成24年度は,上記の通り,北米とヨーロッパを順次訪問し,フェイストゥーフェイスで議論を深めながら共同研究を行う.具体的には以下の方針で行う.4月~6月:基本的な幾何構造を持つグラフに対するアルゴリズムの研究を行う.ホストのHell氏はこの分野の大ベテランなので,地歩を固めることができると思われる.7月~12月:幾何的な構造物に対するアルゴリズムの開発や実装を行う.ホストのDemaine氏はこの分野の牽引役で,非常に優秀である.またMITは各種機材や人材も豊富に揃っているので,必要に応じて実作も可能である.1月~3月:引き続いて幾何的な構造物に対するアルゴリズムの開発を行う.ベルギーを中心とする研究グループは,この分野のもう一つの中心である.ベルギーにこだわらず,ヨーロッパを必要に応じて訪問しつつ,共同研究者を増やすことも一つの重要な目的であると考えている.今回の訪問と共同研究を機に,今後の彼らとの共同研究スタイルを確立し,強固なものにする予定である.そのため,研究費は基本的には旅費と滞在費に使用する.
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (8件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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